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『一網打尽(いちもうだじん)』 ― ターゲティングと経営方針を考える ―

2012年08月20日

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タイトルの諺は、中国の古典・宋史に載っていたもので、悪者の一味などを一挙に残らず捕らえてしまうことの意味で使われます。
一回打った投網で、そこに群れていた魚を全部取り尽くすという意味から使われるようになりました。
現在は悪者を捕らえる局面で使われますが、もともとの出典では一気に全てを取り尽くすという、効率の良い成果の意味で使われていたのです。
さて、物がない時代には、人は物を欲しがります。
安らぎのない時には、人は安らぎを求めます。
マーケティングの第一段階での基本中の基本では、欲しがるものを欲しがるときに如何に供給していくか、その仕組みを如何に早く創っていくかといった、消費者欲求(ニーズ)に応えていくのが第一歩とされています。
テレビが家庭に普及し切れていない時代には、如何にテレビを大量につくり、庶民の手の届く価格帯に下げて、流通網と販売網を整備し、製造のメーカーの知名度を上げていくのかといった手段によって、同じものを沢山の人達にお届けする仕組みがつくられました。
対象者を絞り込まない、大量製造大量販売のマスマーケティングです。
物が無くて欲しい人の数(=需要)が、供給量を上回れば、大量製造と大量販売が成り立つ上に、一定の販売価格の維持も成り立っていたのです。
需要が供給を大幅に上回っていれば、こういった対象者を絞り込まないマーケティングでも成り立っていたのです。
テレビが一家に一台導入されていく高度成長期の最初の頃、三種の神器と言われた残りの二つ、洗濯機と冷蔵庫も同様にマスマーケッティングにより、導入されていたのです。
日本では、1950年代は戦後の物の無い時代に、どんどん作ろう(=作れば売れる)といった『生産志向の時代』と言われます。
三種の神器は50年代後半より普及し始めます。
『もはや戦後ではない』と56年の経済白書で述べられた、『神武景気』の時代です。
1960年代は、如何に企業が沢山のシェアを取れるかと、販売力で勝負する『販売志向の時代』だったと言われます。
1964年の東京オリンピックを導火線として、経済成長が加速した『いざなぎ景気』では、新・三種の神器が登場します。
カラーテレビ・クーラー・自家用車(CAR)で、3Cとも呼ばれました。
この三種についても、先ずは手に入れるのが先決でした。
1970年代に入ると、需要と供給が接近してきて、作った物はとにかく売ろうとして、消費者にさらに意識を向けた販売政策がとられ始めます。
『顧客志向の時代』と呼ばれています。
供給者志向から販売者志向へ、そして販売者志向から顧客志向へと徐々に転換したのです。
マーケティングの4Pと呼ばれるものがあります。
プロダクツ(製品)・プライス(価格)・プロモーション(販促)・プレイス(流通)の四つのPですが、販売者側の視点です。
エドモンド・ジェローム・マッカーシーが1960年に提唱したものですが、消費者の志向を意識しつつ販売者のマーケティング教育に活用されてきました。
一方で、購入者側の視点の4Cというものもあり、ずっと後の1993年に登場します。
いずれにしても、顧客志向という概念が登場した1970年代までは、顧客を限定した価値創造を売り手側が持たなくても営業が成り立った時代で、理美容室においてもお客様お一人お一人に個別の対応をしなくても良い、一網打尽が成り立つ時代だったと思うのです。
今は、そんな時代は過ぎ去っていると思います。
それでは、どんな対応をすれば良いのかを、今号では考えていきたいと思います。

《十把(じっぱ)ひとからげ》

この諺は、何もかも区別なく、ひとまとめにして、粗末に扱うことを言った諺です。
十把とは、束ねたものが十束の意味で、ひとからげは、一つに束ねることを指します。
十束もあれば種類も様々で、良し悪しもあるはずなのに、それを同じものとしてひとまとめにして扱うことから、諺として使われるようになりました。
英語の表現では、『Treat themindiscriminately as worthless.』(価値のないものとして扱う)や、『Lump them together.』(いっしょくたにする)、と使われるようです。
日本人は慎みを持って、自己よりも集団を大切にして、滅私奉公の精神で、フォアザチームによって一糸乱れぬ行動で大国に対抗して発展していくという歴史をたどってきました。
教育も団体行動優先でということを大切にしてきました。
そこまでは良いのですが、本来は一人一人の個性を伸ばしながら特長を活かして調和させる集団をつくりたいところを、没個性的に平準化横並び化をさせ過ぎてしまい、突出した個性を抑える教育をしてきたとの批判もあるようです。
他の人の際立った個性を、みんなと違うという理由で蔑視してしまう傾向が、いじめのひとつの原因になっているとの批判をする評論家もいるようです。
いずれにせよ、明治維新から戦時中までの富国強兵の教育制度も、戦後復興から高度成長期の教育制度も、個人の特性を引き出して伸ばすという事ができておらず、集団一括教育的色彩が濃いが為に十把ひとからげだったのかもしれません。
さて、マーケティングの変化の話に戻すと、1980年代に入ると、その前の顧客志向がさらに進んで、『顧客満足の時代』になったといわれています。
それは、企画や製造段階から、お客様の満足するものを生み出していこうというものです。
この段階になると消費者の事をもっと深く知る必要が出てきて、お客様の傾向を分類して、タイプ別や年齢別に分けてきめ細かく見ていく必要が出てきました。
既に住まいには、物があふれ始めていて、それぞれのタイプ別のお客様を目標にして、製品開発するといったターゲッティングの発想が色濃く出てきます。
1990年代に入ると、顧客価値の時代と呼ばれ、顧客満足をさらに進めて、お客様が評価する相対的品質(顧客価値・知覚品質)を、絶え間なく提供しようという考え方に進化します。
1993年にロバート・ローターボーンによって、買い手側の視点による『4C』という分類が提唱されました。
これは、1960年代からのマーケティングの『4P』が、売り手側の視点で捉えられているとし、消費者の視点で捉え直そうというものです。
4つのCとは、
① Consumer(消費者のニーズやウォンツ)、もしくはCustomer solution(消費者の問題解決策)、またはCustomer Value(顧客価値)
② Customer Cost(顧客コスト)
③ Convenience(利便性)
④ Communication(コミュニケーション)
の四つのCです。
4Pと4Cはそれぞれ以下のように対応しています。

” Product(製品)

Consumer(消費者のニーズやウォンツ)あるいは、Customer solution(顧客の悩み解決)

” Price(価格)

Customer Cost(顧客コスト)

” Place (流通)

Convenience(利便性)

” Promotion(プロモーション)

Communication(コミュニケーション)

4Pと4Cを組み合わせて、望ましい長い関係を引き出すために、マーケティング戦略において、組み合わせやすり合わせを行うことを、マーケティングミックスと読んでいます。
1950年代頃からの供給者・提供者・製造者側からの発想のマーケティングから、販売者側志向、顧客側志向へと変化し、顧客満足、顧客価値の時代へとマーケティングは大きく変化してきました。
そして、マーケティングの4Pから、マーケティングの4Cへ至り、それがミックスされた上で、お客様との個別の関係構築の経営=CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の時代に入ったといわれています。
Customer Value(顧客価値)は、お客様に一生涯利用していただいた場合の生涯価値(ライフタイム・バリュー)として意識されてくるようになりました。
生涯のアップルコンピューターファンや、生涯或いは何世代にも渡って通い続けていただける美容室をどう作り上げるか等、各業種で『一生涯のお付き合い』を目指したファンを創っていくマーケティングの方向です。

《十人十色》

十人十色とは、人は一人一人それぞれ姿形が違うように、好みや考え方もそれぞれ異なるものだということを言った諺です。
一人で一色あれば、十人では十色あるといった語源でしょうか。
英語では、『So many men、so many minds.』(人の数だけ、考え方が違う)、『Every man has his humor.』(人はそれぞれの気質がある)等、沢山の表現があるようです。
現在のマーケティングは、お客様ひとりひとりに向き合うのですから、当然お客様の個別の気持ちに寄り添っていく事が必要になります。
しかし、全てのお客様の層に対応できるかというと、そのための人員や教育、プロモーションなど沢山のコストがかかり、収益が伴わない事業となってしまう可能性が高くなります。
経営資源は限られており、すべてのお客様に対応することは、不可能なのです。
また、全部のお客様を網羅しようとすると、サービス内容が総花的になりがちで、感動を呼び起こすような、おひとりおひとりの個別事情に寄り添っていくきめ細かいサービスができないことになり、お店の特徴が消えてしまいます。
そこで、どの顧客層(セグメント)を標的市場にするかを決めて、はっきりとした政策をとっていくことが必要で、それをターゲッティングといいます。
自店のサービス内容や取り扱い製品が訴求しやすく、競争力を持つお客様の分類をはっきりとさせ、その方達にはっきりとした提案をしていくことが必要だと思います。
ターゲティングに際しては、その「市場規模」、「自店の強み/弱み」、「製品ライフサイクルの段階」、「競合店の戦略」などに留意し、総合的に判断をするべきだと言われています。
たとえば一例として述べると、ボリューム購買層といわれる、40代・50代、或いは60代女性に対する推奨メニュー、製品プロモーションが美容室では極めて少ないことがあります。
もちろん、サービス内容や技術面だけでなく、文字表記を大きくする、BGMの曲を変える、照明を眩し過ぎない照度にするなどの配慮も必要だと思います。
めがねをかけたお客様へのスタイル提案フォトなども、美容業界で非常に少ないと思うので、ターゲッティングして呼びかけていくにはいい材料かもしれません。
男性のお客様が足を運べるお店が減っている面もあります。
バーバーさんの軒数が年々減っており、経営者も高齢化している傾向があり、顧客の平均年齢が上昇しているとの統計資料が出ています。
一方で、理容学校の入学者、免許取得者が少なくなってしまっていて、若手技術者が理容室に新たに入る事が少なくなってしまいました。
男性の20~40代の層がヘアスタイルを整えるのに際して、安心して足を運べるお気に入りのサロンを捜すのに、満足できるお店の絶対数が少ないとも、指摘されています。
受け皿が無ければつくれば良いのでしょうが、メンズ顧客を積極的に獲得する、掘り起こすというターゲッティングは少ないように思います。
男性顧客は、一度気に入ると浮気しづらい安定顧客になる可能性が高いともいわれています。
パーティヘア、アップ・ダウン・付け毛などのヘアアレンジメント、メイクアップ、ネイル、ウィッグ、エクステンション、着付けや、エアーブラシを使ったボディペインティングなど、『装い』をテーマにした技術を複数組み合わせたサロンも需要拡大に伴って、増えつつあるようですが、お店で得意とするできる技術を明確に打ち出し、ターゲット顧客の心に響くご提案をしていくことによってご支持を受ける看板メニューになってくると思います。
知覚動考(ともかく動こう)=知識を得て覚えたら先ずは動いて、それから効果測定をして次を考えるという順番ですが、行動してみてはいかがでしょうか。