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『商は笑なり、勝なり』 ― 基本的なことから見直そう ―

2010年01月20日

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今回は諺ではなく、近江商人の残した格言からスタートします。
「『商』は『笑』にして『勝』なり、『笑』を『省』ずれば『商』は『小』なり、『笑』を『昇』ずれば『商』は『勝』なり」というものです。
『』内はすべて『ショウ』と読みます。
「商いは笑顔が大切、笑顔を怠ると商いは小さくなっていき、笑顔を高めれば商いは成功する」といった意味です。
その後、「笑を省ずれば商は少なり」の後に「やがて商は『消』なり」と付加える人が現れて、それが家訓として伝わった近江商人家もあるようです。
つまり、笑顔を忘れると商いは消えてしまうということです。
近年では、お好み焼き専門店「千房」で大成功され、社会教育家としての講演でも知られた中井政嗣社長が「笑は商なり、笑は正なり、笑は昌なり、笑は勝なり」と説いています。
『昌』は「さかんなこと」「明らかなこと」の意味で「繁昌(盛)、隆昌(盛)」など、栄えている様子を指します。
中井社長は中学卒業と同時に乾物屋に丁稚(でっち)奉公し、大阪ミナミに千房を開店、その後大阪のお好み焼きの味を世界に広めた人です。
仕事の傍ら勉強し、40歳にして高等学校を卒業した体験から、独特の教育論で人育てをしてきたことを、氏は講演で語ってくれています。
さて、笑顔の効能については以前本欄で、『笑う門には福来たる』というタイトルで述べさせていただきました。
他の人の笑顔を見ることによって、それを見た人は知らず知らずのうちに神経伝達物質「ドーパミン」(別名・喜びのホルモン)が分泌され、幸福な気分になっていくとの内容でした。
更に、これも無意識のうちに、その幸福感、快感を求めて、その人達に会うために、その店に来たいと思ってしまうといった点にも触れました。
「幸福は楽しい門を入ってくる」、「笑って損した人はなし」などのたくさんの諺があるのも、学術的に解明はされていなくても、昔の人は体験的にそれを知っていたからでしょう。
「幸運は楽しい門を入ってくる」は、英語の諺「Fortune comes in by a merry gate.」を訳してできたそうです。
笑顔は世界共通のコミュニケーションツールと言えそうです。

《警戒距離》

理美容室で施術する際に、お客様と技術者は接近しますが、お互いが無意識のうちにストレスを感じている場合があることをご存知でしょうか。
人間は単独で素手で戦った場合には、決して強い動物とは言えません。
虎やライオンといった猛獣と呼ばれるものに対して、戦闘能力ではるかに劣っているばかりでなく、へびやさそりの様に人間より小さくても猛毒を持った生物にも負けてしまいます。
熊や猪に襲われたニュースも耳にしますし、普段おとなしい象や牛でさえ、怒らせると武器を持たない人間独りでは歯が立たないものです。
人間は集団で協力して戦うことや、知恵によって武器や防御策を編み出し、命を守り、優位に立ってきました。
火を使える唯一の動物になったことで、猛獣たちが恐れて近づけないテリトリー(生体領域)をつくって生存してきたと言われています。
しかし、元々単独素手では弱い動物ですので、その分警戒心が強くなっていった動物でもあります。
現代の人間も意識の上には無くても、潜在的に強い警戒心を持っています。
また、他のどの様な動物でも「なわばり」と呼ばれるものを持っています。
外部から侵入者が入ってきたときに、戦闘態勢を整えたり、威嚇したり、逃亡するための準備をするエリアが「なわばり」とも言えます。
この「なわばり」の一番外側までの長さが警戒距離です。
警戒距離は、その動物の逃げるスピードや運動能力や攻撃能力により、長さが違うようです。
例えば、すぐに飛び立つことができて、かつ高速飛行可能な鳥の場合は警戒距離が短くなり、助走をつけないと飛べない鳥や、低速飛行しかできない鳥は逆に長くなるそうです。
つまり、すぐに逃げることができれば、外敵が近づいても対処可能なので警戒距離が短くなるといった具合です。
それでは、人間対人間の場合の警戒距離はどの程度なのでしょうか。
その長さは環境によって違い、また歴史的に変化していると言われます。
昔から飛び道具を使って狩猟してきた民族は長いと言われ、集団で農耕してきた民族は短いと聞きます。
例えば家と家との間隔も集団農耕型民族は隣家同士が近く、密集して暮らし、狩猟型や牧畜型は逆に、隣家と離れて暮らす傾向が強いそうです。
また、日本の様な島国で他民族からの侵攻が少ない場合は警戒距離が短く、ヨーロッパの一部の様に陸続きで民族紛争や侵攻が多かったところは、警戒距離が長くなると言います。
数年前の学術的調査では、日本人の平均的な警戒距離は1・13mで米国人では3・68mと発表されています。
米国人は日本人の3倍遠くから無意識の防衛本能を感じているようです。

《パーソナルエリア》

以上述べた人間の警戒距離は、見知らぬ人との距離のことで、友人・仲間の場合の警戒距離(米国人の場合は1・22m)と家族や恋人などの親密な人との警戒距離(米国人の場合は46cm)がさらに内側にあると言われます。
この親密な人との距離の内側(人により差があり、日本人の場合は30~45cm以内)を「パーソナルエリア」(個人空間)と呼び、この領域にまで侵入されると、気分が不快になったり、興奮したり、距離を置くために逃げるといった現象が出てきます。
友人に対してもそうなるので、見知らぬ人がこの領域にまで侵害すると強い作用が出てくる場合があります。
満員電車で不快になるのもこれが原因ですし、席を詰めて座れば良いのにわざわざ隣の人との間にスペースをとりたがる人がいるのも、パーソナルエリア確保に無意識で行動するのが原因のようです。
男女間でも距離の差があるようで、女性は近くに集まっている方が安心感を持つ傾向があり、パーソナルエリアは狭くなるとのことです。
例えばトイレのボックスの埋まり方では、男性は隅のボックスからひとつずつ間を空けて使っていく傾向があり、女性は逆に中央から隣を埋めるように密着してボックスを使っていく傾向があるとのことです。
女性が強くなったといっても、生物学的には守られたいとの願望から、男性と比べると至近距離に入られても距離感が近いことによる安心感の方が、勝るのではないかと見られています。
一方、男性は闘争する前提だったこともあり、本能的に警戒距離が長くなっているようです。
日本人の場合の警戒距離の1・13mは、二尺数寸の刀を互いに合わせた場合の距離に非常に近くなっているように思えます。
剣道で「間合いをとる」というように、この「間」という言葉は元々距離のことを言っていたそうです。
また、日本人も大勢で雑魚寝していた時代から、それぞれ個室を持つようになり、現在はパーソナルエリアが広がってきたと唱える学者もいます。
その方の説によれば、満員電車でのいざこざが増えたり、キレる若者が増加したのも、パーソナルエリアが広がった為に、親密な人しか許されないゾーンに、見知らぬ人が入り込む可能性が高くなった為と推察しています。
いずれにしても、理美容技術者は歯科医や眼科医などとならび、初対面の人に対してでも、パーソナルエリアの顔の至近距離にまで、顔を近づける場合がある稀有な職業なのです。
それだけに、本能的(場合によっては無意識)なお客様の警戒心を取り除いてあげることが必要な仕事なのです。

《おじぎと握手》

見知らぬ人が警戒距離内に侵入してきたとします。
この場合に喜びのホルモン・ドーパミンはほとんど分泌されないはずです。
この場合は不安や興奮、緊張のホルモンと呼ばれる、「アドレナリン」や「ノルアドレナリン」が分泌され、全身を無意識のうちに駆け巡ります。
血圧が上昇し、冷や汗をかいたり、赤潮したり、呼吸や脈が早くなり、瞳孔が開きます。
すべてアドレナリン、ノルアドレナリンの働きのためです。
一方では逃避態勢を準備するホルモンとも言われており、そんな緊張状態におかれた上に、逃避も我慢していることは非常に不快なことです。
そんな状態を打破するためのコミュニケーション手段が生まれました。
それが、笑顔と握手などの挨拶です。
欧米人は右手で握手する際に左手は必ず体の前に置き、両手に武器を持っていないことを示します。
笑顔を見せながら、両手を前にして近づいてくるのも、警戒距離内に安全に入っていく為に必要な知恵なのです。
日本流のおじぎも相手から目を離し、頭を下げることにより、「あなたに危害を加えるつもりはありません」と無防備なところを見せて警戒心を取り除き、安心してもらう大切な行為なのかも知れません。
「ヤア」と手を上げる、「ジャンボ」と言って両手を上げる、お互いに舌を見せる等の各地の挨拶も、敵意を持ってないことを見せるためのものです。
また、欧米流テーブルマナーで、必ず両手をテーブルの上に出しておくのも、武器を隠し持っていませんと相手を安心させる為のものです。
人対人の争いが多かった地域では、そこまで気を使うことが礼儀なのかも知れません。

《笑はSHOWなり》

笑顔は見せないと意味がないと思い「SHOW」を使ってみました。
もっと強く言えば、見せつける(SHOW)必要まであると思うのです。
特に初来店のお客様は、極度の緊張感で警戒心の塊となってドアを開けるはずです。(警戒距離内に侵入)
その際に店内スタッフと目が合った時、スタッフに笑顔が無かったらどう感じるでしょうか。
明るい挨拶やおじぎも無かったらどう感じるでしょうか。
スタッフ側も初めて見る人に対しては本能的警戒心があるので、目やしぐさに不安感が現れてしまいます。
それを見たお客様の警戒心や不安感はさらに増幅され、居心地の悪いまま店内に入ります。
そして、不安感を拭い去れないままのお客様がそのまま技術を受けることによって、親密者しか許されないパーソナルエリアの至近距離まで技術者に入り込まれるのですから、安らげる確率は低くなります。
このままお帰りになるとすると、そのお客様の次回来店の確率は非常に低くなります。
オーバーな表現に聞こえるかと思いますが、心理学的に言える事なのです。
2回目、3回目の来店のお客様であっても、打ち解けた関係になるまでは、お客様の心の中にある自覚できていない警戒心や不安感を取り除かないと次回来店が危ういものなのです。
来店されたお客様の警戒エリアに入っていくまでに全員でたくさんの笑顔を振り撒きましょう(SHOW)。
笑顔を見たお客様は自覚していなくても、喜びのホルモン・ドーパミンが分泌され、体中を駆け巡ります。
幸せを感じ、笑顔の人に自然と好意を抱きます。
不安感より喜びが勝ります。
お店やスタッフに好意を持った状態で、技術に入ると、至近距離に入られても、親密感や安心感を持ちます。
お客様が幸福感等の、快感を感じる程にドーパミンを出すと、次回もこの快感を感じるように体が動き出します。
つまり、再来店の確率が高くなるということです。
すべての解決策が笑顔なのです。
勿論、プロとして技術を磨くのは大切な事ですし、当然の事でもあります。
しかし、人一倍練習して、磨いた技でスタイル上は満足させられても、笑顔や挨拶が不足していたがために、次回来店されないことがあるとすれば、非常にもったいない話です。
逆に、技術に多少不安があっても、笑顔や挨拶、お客様応対が上手い、人気者の技術者がおられるのも事実です。
業界を代表する人気技術者と呼ばれる方は、この両方を兼ね備えた人なのかも知れません。
不況と呼ばれる今だからこそ、サービス業の基本である「笑顔」「あいさつ」「礼儀」を重要視する必要があると思いますがいかがでしょうか。

「商」は「正」をもって「笑」を「SHOW」すれば「勝」なり、
「笑」を「省」すれば、「小」を通り越して「消」なり。 by マックス

経営&教育コンサルティング企業・(有)ムービング大阪・代表取締役社長・川上紳一氏のお話を参考にしました。