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『得手(えて)に帆を揚げる』 ― お客様に愛される店の原点とは―

2011年03月20日

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タイトルの諺は、「自分の得意な事や、自分の力を存分にふるえる機会が到来し、大いに勇み立つ事」をたとえて使われます。
「得手」とは「自分が得意とすること」で、好機に恵まれて得意なことを調子に乗り順調に進行している時を表す諺です。
同じ意味の諺としては、「得てに帆を掛ける」「得てに帆」「追風(おって)に帆を揚げる」「得手に帆柱」「真帆に追い風」「得手に棒」など沢山あります。
英語では、「Set your sail according to the wind」または、「Hoist your sail when the wind is fair」(順風の時に帆を揚げよ)と表現される様です。
四月はフレッシュな人材を迎える季節でもあります。
また、人事異動や就職、就学等で新しいお客様が移動し、新顧客が増加する時期でもあります。
スタッフのみならずお客様であっても、フレッシュな人々が店内に入る事で、サロン自体も雰囲気が変化していくものです。
この機会は、サロンが飛躍的な変化と向上が計れる時期と前向きに捉えたいものです。

《水を得た魚》

人は活躍の場を与えられると「水を得た魚」の様に嬉々として能力を発揮していくものです。
スタッフが嬉々として幸せと喜びに満ちた笑顔で働いていると、お客様にも喜びが伝わります。
お客様満足(CS=Customer Satisfaction)の前に、従業員満足(ES=Employee Satisfaction)が先というのはそういう意味だと思います。
スキル(技能)の優れたスタープレーヤー的スタッフが個人のパフォーマンスを最大限発揮しても、他のスタッフが情熱を感じられない仕事振りをしていれば、お客様に喜ばれるサロンにはならず業績は上がらないものです。
逆にスキルが未熟で経験不足のスタッフが多い店でも、スタッフ全員がお客様が喜ぶことを幸せとして、嬉々として働いているサロンでは、お客様が満足感を覚える確率も高くなってくるのではないでしょうか。
日本のビューティサロンビジネスは、技術は師匠から盗むもの、奉公したり精進しながら辛抱の下積みをして身に付けていくものだという、徒弟制度から生まれてきた歴史があると思います。
もちろん技術を習熟する為には、繰り返しの訓練で体に叩き込む必要もあるので、厳しさを伴った指導で習慣づけられるまで外圧が必要な場合もあります。
しかし、以前の徒弟制度には、住み込みで寝食を共にしたり、家族同然に愛情をそそぎ込むものもあっての厳しさであり、感謝の心も大切な前提として存在していたものと推測できます。
「スタッフが仕事に命を懸けられる様に、経営者が家族のように愛情を注ぎ込んで、良い人間関係を築くことが大切」と講演の中で語るのは、北九州市の㈲バグジー・久保華図八社長です。
久保社長は「愛のあふれる職場をつくらなければ、お客様に愛が届く筈がない」といいます。
そして、「仕事以外の無駄と思われる様なことを一緒にすることによって、無駄なことから愛着が生まれ、喜びを感じて良い人間関係ができる」と力説します。
久保氏はまた、従業員満足の為には労働条件ではなく、「尊敬できる人の下で働けることは幸せ」と、社員に認めてもらえる様に情熱溢れる経営者になり、尊い皆(社員もお客様も)を幸せにするという仕事観を持つリーダーでなければならないと語ります。

《異動と移動の差》

四月は昇進や転勤などの人事異動の季節でもあります。
人事異動は「移動」では無いと語るのは、人材教育企業のモチベーション・アップ㈱代表取締役副社長の丸田富美子氏です。
経営者としては、マンネリ化した店舗や部門を活性化、改革するために、リーダーを代えるという抜擢人事や、配置換え等の人事異動を行う場合があります。
しかし、そんな経営者の期待とは裏腹に、新しく着任したところの今までのやり方や常識に、あっという間に染まってしまうリーダーも、時々見かけると丸田氏はいいます。
そんなリーダーに共通している事は、時間をかけて今までのやり方を理解しようとしている中で、時間をかけて理解しているつもりが、いつの間にか染まってしまう結果になっていると。
結局、リーダー自身も周りの人も、その方が、「楽」だからそうなりがちになると主張します。
人事異動は、字の通り「異なる動き」を起こすために行うものであり、単に「人を移す」移動ではないと丸田氏は力説します。
あなたを配置転換したり、新しい役割りを与えたりしたのは、経営者が「異なる動き」を期待しているからで、「それは遅くとも一カ月以内に糸口を見つけて、行動を起こして欲しい」とスピード面も付け加えて、リーダーがしっかりと対象者に伝えることが大切と丸田氏は結びます。

《順風満帆》

得手に帆をあげて、得意な事を生き生きと喜びをもって継続していると、調子が出てきて最良の状態を迎える場合があります。
その状態が「順風満帆」です。
順風とは追い風のことで、帆いっぱいに順風を受けて舟が快く進むがごとく、ものごとが思い通り順調に進んでいることのたとえで使われるのがこの諺です。
「流れに棹(さお)さす」も同じような意味の諺で、都合の良いことが重なって、ものごとがすらすらと思い通りに運ぶことのたとえで使われます。
流れに乗った小舟に、さらにサオで勢いをつける意味から使われるようになったそうです。
さて、㈲バグジーの久保社長のお話に戻ります。
二月号の当欄でバグジーさんは「お客様の喜ぶことは何でも有り」と例をあげて紹介しました。
久保社長は二月の大阪開催の異業種のセミナーで、次の様なエピソードも語ってくれました。
ある明るい若手男性技術者が、「絶対に一カ月売上のトップになる」と宣言したそうです。
有力な先輩技術者が多い中で、持ち客数も技術の習熟度も二番手グループの彼が絶対に一番になるという話に、皆は疑問視しましたが、彼は「自信がある」ときっぱり言ったそうです。
彼は手彫りの印鑑をつくる教室に夜間と休日を利用して通い続けており、お客様の名前を彫り込んでトレーニングしたり、趣味としてつくっていたそうです。
そしてしばらくしたある日に、大きなビニール袋に473ケもの印鑑を入れてニコニコしながら出勤してきたそうです。
休眠客と更に長期間の休眠客も含め、彼が一回でも技術をした人総数の印鑑を持参したのです。
「あなたに心を込めて印鑑をつくりました。長い間勉強してきた思いを込めて。その思いであなたを美しくするお手伝いをしたいと思います。ぜひ印鑑を受け取りに私のところへ来て下さい。」とお手紙を出し、必要な方には電話も入れたそうです。
翌月一カ月の彼への来店客は、何と436人で、客単価は約九千円にもなったそうです。
売上は掛け算してみていただきたいのですが、驚異的なのは「印鑑プラスお手紙」での来店率が92.2%もあったことです。
彼を大好きだというお客様が増大した事は間違いありません。

《傷だらけのアンパンマン》

アンパンマンは自分の顔をお腹の減った人々に、「僕の顔を食べてください!」と差し出します。
自分の顔が少なくなるとアンパンマンは元気が無くなって飛べなくなってしまうのに、困った人の為にそれでもなお自分の顔を差し出していきます。
ジャムおじさんに新しいパン(顔)をつくってもらっても、またヘトヘトになるまでまた自分の顔を与え続けていきます。
子供達の中には、この場面で泣き出す子が居ます。
自己犠牲を伴ってまで人に奉仕するということは美談であり、サービス業としての究極の姿の様にも一見思えますが、これではお客様が素直に喜べない面も多いと思うのです。
お客様の側から見ると、スタッフの自己犠牲の様な痛々さを感じながらサービスを受けても、心の奥底に「そんなにまでしてもらって申し訳ない」という気持ちが存在して、素直に喜べないモヤモヤ感が残るようです。
子供達にとっても、傷だらけで元気の無いアンパンマンから施しを受けるよりも、元気ハツラツでニコニコしたアンパンマンが人を助けるシーンの方が嬉しいものだと思うのです。
人は自らの職業に生き甲斐を感じ、喜びをもちながら楽しく働く人から、技術や接客を受けることで、幸せ感が増大する生き物だと思うのです。
ですから、4月からの業界ニューフェイスの皆さんには、先ず仕事が好きで好きでたまらない状態になって欲しいと思います。
次に、お店が好きで、会社が好きで、先輩が好きな状態に早くなってもらいたいと思います。
お客様が大好きとなれば、接客する喜びを感じ、自然な幸せの笑顔が出るようになります。
笑顔を見たお客様は自然と喜びのホルモンと言われる脳内物質・ドーパミンを分泌し、幸せ感を感じていきます。
このドーパミンによる幸せ感には習慣性があり、またこの喜びを味わいたいとお店に再来店する確率が上がります。
これが笑顔の好循環です。

《ポポポポーン》

今年の流行語大賞になりそうな言葉になってきています。
魔法の言葉として、「ありがとう(ウサギ)」、「こんにちわ(ワン)」、「こんばんわ(ワニ)」などの挨拶推奨がACのTVスポットで繰り返し流されています。
「遊ぼう」と言えば「遊ぼう」と返ってきて、「遊ばない」といえば「遊ばない」と返ってきてしまうものであると主張します。
人間心理には、肯定的表現には肯定的に返事をし易くなり、否定的表現には否定的な言葉で無意識に返してしまう傾向があるようです。
否定言葉を使ってしまうと否定言葉のキャッチボールが始まり、否定語が増幅(エスカレート)してしまいがちになります。
お店の中では、前向きな言葉の連鎖を呼びたいものです。
挨拶が挨拶を呼んで人間関係が良くなっていくのも同じ理由からなのです。
ここで大切なのは三点です。
新人スタッフは技術的にお店に貢献できないとしても、笑顔と元気な挨拶はできるということ。
元気な挨拶を笑顔とともに先手を打ってしていけば、誰でも職場を活気づけることが可能です。
お客様を元気にし、楽しい気分にして、再来店比率を上げるお手伝いができるという点です。
二点目の重要点は、先輩や上司が新人に負けない笑顔や挨拶をしっかりするということです。
先輩の態度によって、フレッシュな新人の気持ちは大きく変化するものです。
新人に負けない笑顔と挨拶を、先輩がし続けることが大切です。
三点目は、繰返し粘り強くし続ける事で、初めて効果が出るものだという自覚を持つ事です。
ACの「魔法の言葉CM」は繰り返し放映された事によって耳に残り、子供達は挨拶の回数が増えて挨拶を返し、好連鎖が生まれているという事を聞きます。
前出のバグジーの久保社長は、「お百姓さんは良い土をつくるのが第一」で、同じ様に「経営者は良い人材と、皆が気持ち良く働ける環境をつくるのが第一の仕事」と主張します。
その為には、良い点を見つけ出して伸ばす「得手に帆を揚げる」ことで活気付けて、挨拶や笑顔を新スタッフの得手にしていくことで、「ポポポポーン」と良い方向に進めていくことが重要と考えますが、いかがでしょうか。
今回は、北九州市・㈲バグジーの久保華図八社長による2月17日に開催されたグランキューブ大阪での講演、モチベーション・アップ㈱の代表取締役副社長・丸田富美子氏の「幹部育成の着眼点」より引用しました。