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『門前市(いち)をなす』 ― 人付き合いの原点と商売の原点を考える ―

2012年03月20日

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門の前に、まるで市でも開いているかのように、次から次へと人や馬車などが集まり、にぎわう様子から出てきた諺です。
以上の様子から、この諺は、その家を訪ねてくる人がきわめて多いことのたとえで使われます。
また、商売繁盛してたくさんのお客様でにぎわっている様子を表現する諺です。
その人の魅力や名声を慕って多くの人が集まることも表します。
出典は、中国の古い書物の『漢書・鄭崇伝』とのことです。
英語の表現では、『Visitors call on him incessantly.』(彼の家にはひっきりなしにお客がやってくる)と、そのままズバリのちょっと面白くないいいかたをするようです。
類似の諺では、『門前市の如し』『門庭市の若し』等があります。
逆に人が集まって来ない意味の諺では、『閑古鳥が鳴く』『鳥の網(あみ)張る宿』『門前雀羅(じゃくら)を張る』等があります。
人が集まってくる人、人が集まってくる店と、それ以外の場合との差はなんだろうかと、今号では探ってみたいと思います。

《営業力》

営業力とは商品を動かす力ではなくて、人を動かす力だと小生は思っています。
商事会社勤務を30年以上してきた経験から感じることは、総ての企業活動はもとより、極論すれば人間の営み全般が営業行為といってもいいのかとさえ思えます。
人の喜ぶことを見出して差上げること、自分がお役にたてることを捜すこと、他の方が自信を持てたり自ら輝けるものを捜したりして応援すること、他人や自分を売り込むこと、美しくして差上げること、文化を根付かせたり広めたりすること…など、総てが営業行為に他ならないと思うのです。
当然ですが、理美容サロンに繰り返しお客様に足を運んでいただくというのも営業行為そのものだと思います。
『業』=生業(なりわい)、つまり生きていくために必要な活動。
『営』=営み(いとなみ)、生きる為の仕事、つとめ、したく。
この言葉の意味の通り、生きる為の総ての活動を営業といっても良いぐらいだと思うのです。
例えば、子育てで子供の特徴をつかみ、美点や長所を見出すことができて、潜在的能力も含め伸ばせるとするならば、素晴らしい営業センスと営業スキルを持った方で、商品を持たせれば商品も同じように輝かせてあげられる人だと思うのです。
太古からの人間の歴史を紐解けば、これがあったら便利で人のお役に立てるという信念で、そういったものを捜してつくる人がいました。
また、こんなことができれば人が喜んで感動するに違いないと、人の笑顔や喜びを生きがいとする人がいました。
このどちらも、つくることや使い方を創造し、それをより大勢に伝えて喜びとしていくという、正に営業行為です。
人間は火を持つことができて、他の動物を支配できる立場になれたと言われています。
火を使えるようになった人間の中には、これをたくさんの人に伝えたいと思う人が現れました。
他の部族の中にも、火によって攻撃してくる野獣を追い払える上に、寒さ対策ができ、夜も明るく過ごせ、焼くことによって雑菌駆除ができて美味しいなどの噂を聞きつけ、野山を越えて火の起こし方や使い方を習いに来るものが現れました。
今まで石を削っただけ、粘土を自然乾燥させただけでつくっていた食器類を、火を使うことにより粘土を焼いて陶器をつくり、さらに青銅器をつくりと進化をしてきました。
果物や野草を取るだけだったところから、稲作して火を使い炊飯する方法が編み出されました。
火を起こす、稲作する、炊飯する、青銅器をつくる等、ありとあらゆる文化が、営業的ホスピタリティーマインドにあふれた人達によって、世界の津々浦々まで伝えられていったのです。
吹雪の山々を超え、灼熱の砂漠を越え、荒れ狂う大海を越えて、使命感に燃えた商人達が文化を隅々にまで伝えてきた歴史があると思うのです。
理美容の世界でも、電気パーマやコールドパーマ、ヘアカラーに結い上げや編み込み、カット技法等、遠くにまで出かけて学び、それを伝えて後世に残していく、文化を伝道する意欲に燃えた人々がたくさんいたのです。
最近でも、近代的エステティック、エクステンションやネイルなどの技術等、先駆者達がその先進国に出向いて、日本に伝えてきた歴史があると思います。
日本の理美容業界が構造的な低迷または停滞期にあると論ずる人もいらっしゃいますが、もし技術中心主義に加えてお客様との関係が、待ちの姿勢や受身の姿勢だったとしたならば、皆さまの幸せの為に積極的に動くという『営業マインド』に気持ちの転換をするだけで、大きく結果が好転する可能性があると思っています。

《三つの力》

小生が尊敬する飲食店経営者がいます。
株式会社アドバンスキッチンで、大阪府高槻市・神戸市三宮・大阪市西中島の三店舗の餃子専門店を持つ、小池政彰氏です。
小池氏は近大から社会人とアメリカンフットボール選手でした。
その鍛えた体と精神で、食品卸の会社で7年間トップセールスだったそうです。
持ち前の明るさとガッツ、チーム統率力で営業の第一線を走り続けたのち、浪速ひとくち餃子チャオチャオのフランチャイズオーナーに転じます。
フランチャイズ本部直営店の不採算店として閉店するかというお店を一店舗譲り受け、設備も人もそのままで、新たな広告費も掛けらない状態…つまり、営業力しか変えられない状況の中で飛躍的に業績向上させて、チェーンを代表する好業績店舗に転換させたのです。
一度だけではなく三店舗も…です。
そんな経歴も知らないままに、初めてお店を訪れた私は、驚きと感動で幸せ感を味わいました。
初めていった時から居心地がとても良いのです。
まるで家族や、昔からの友人の中にいるような気持ちを最初から感じるのです。
楽しい会話に、初めての方も加わり易いように、さりげなく好きな話をつかんで話を振ってきたり、常連客の趣味嗜好を教えてくれたりして、会話が弾むように場をつくってくれるのです。
さらに、常連客が美味しいものや美味しい食べ方を教えてくれたりもするのです。
勿論、チェーン店としての基本メニューも美味しいのですが、小池氏の店はその他の独自メニューも特徴があって打ち出しも秀逸です。
食べ物だけでも充分満足なのですが、加えてそこに身を置くだけで幸せという思いが追加されるのです。
しかもほとんどのメンバーが学生さんのバイトで、そこまでの店を作り上げるのです。
もっとも、バイトさんも大学生であればほぼ例外なく4年間勤め続けると聞きますし、社会人として身につけていくべき大切なものを身に付けられるからこそ頑張れるのだと思います。
そして、就職活動のお世話や模擬面接まで小池氏がして送り出すというから驚きです。
小池さんの店の大ファンになってからしばらく後に、彼の講演を聴く機会に恵まれました。
講演の中で彼は、店が勝ち続けるためには、三つの力のバランスが大切だと語ります。
その三つとは、チーム力・営業力・管理力です。
中でも彼が一番得意とする領域が営業力だそうです。
何しろ営業力だけで、立地も設備もスタッフも変わらない不採算店を大幅に黒字転換させてきたのですから…。
不景気といわれる時代になればなるほど、必要なのが営業力だと思います。
そして、営業力とは信頼される力、親密になる力といった人間力そのものだと感じています。

《友達の魔法》

小池氏は営業力とは、『また会って欲しいと思ってもらえるようにする力』と定義します。
そして、その為のお客様との関係づくりをするのですが、そのゴールは『お友達になること』を目指します。
お友達になると、会いに来たくなります。
信頼関係と絆で結ばれます。
他のお客様(お友達)を紹介していただけます。
家族も紹介したくなり、連れてこられます。
お店から離れなくなります。
そして、場合によっては応援者として店のお手伝いまでしていただけ、さらに言うとお願いまでできます…といった具合です。
友達になるとは、『この人とずっと接点を持っていたい』『一生つながっていたい』『自分を必要と思ってもらう』『その人の右腕以上になる』といったように人として必要とされることです。
そのためには、プロとして相手を導くこのできる知識や技術の勉強をしっかりして身につけ、アドバイスして信頼を勝ち取れるようになる為の努力が欠かせません。
では、そんな関係になるにはどうすればいいのか?
彼は、子供の頃に戻って考えれば解ると言います。
子供はどんな子と友達になりたいか、それは『気になる存在の子』です。
それだけの存在感を持つ子供に、吸い寄せられるように子供達が集まるのです。
子供は正直なので、教室でも校庭でも、楽しそうにしている集団に群がっていって、そこにまたさらに人が集まっていきます。
その中心にいて、火を付けた人がその様な存在感を持つ人、気になる人の場合が多いのです。
その様な存在になれるのは特定の人では決してなくて、誰でもなれるものらしいのです。
例えば、無口のスタッフでもその人の得意分野に、他のスタッフが話を振ってあげることで会話の輪に入っていけて盛り上がれるのです。
無口なお客様も同様です。
記憶力がいい、笑顔が素敵など、メンバーの持っている才能を見出して、最大限特徴を生かしてあげることが重要なのです。
お友達は親しいだけだと長続きせず、自分にない特徴を相手に知ってもらい、補完し合う関係が必要なようです。
つまり、相手に時には頼りにされないといけないそうです。
友達として、相手にとって頼りになる部分を表現していかなければならないのです。
その為に、①『親しみの笑顔』と、②『自信の笑顔』の2種類の笑顔をマスターする必要があると氏は語ります。
愛嬌のある人懐っこい笑顔が①で、きりっとした目で自信に満ち溢れた頼りになる笑顔が②だそうです。
これが入れ替わってしまうと、飲食店では美味しそうに見えないし、理美容室ではつくられるスタイルにお客様が不安を持つのではないかとの理由です。
店舗は相手が期待する以上のことをして差し上げたり、して欲しいことを先回りしたりして、感動機会を提供する場でなければならないと氏は語ります。
小生がお客様として通う度に驚かされるのは、氏の店はそれができているからだと思います。
スタッフ側からお客様に『こんな場合どうしたらいいの?』と相談する事、『そりゃ凄い』と相槌を打つこと、『教えてくれてありがとう』と、より具体的表現を感謝の言葉の前に加える方法等、お客様に最大限気持ちが良くなってお帰りいただけるようなおもてなしをしています。
人は誰でも他の人から認められたいという承認欲求を持ち、それを満たされると嬉しいのです。お客様を大切なお友達と思えば当然の行為でしょうと、小池氏は笑います。
お帰りになる時に外までお見送りし、遠ざかるお客様の背中越しに、『また、次回お待ちしています』と声をかけた際に、お客様が振り返らなければ次の来店は期待薄だと言います。
友達と別れるのに、挨拶しない人はいないからです。
振り向かない場合は、『あっ』と叫び、それで振り向かれた瞬間に、『ありがとうございます』と最大限の笑顔で声をかけます。
これで、笑顔をお客様が返してくれなければ、友達になれていないのです。
小生が社会に出た三十数年前やそれ以前の高度成長期は、商品の説明が上手ければ商品は売れていました。
また、夜討ち朝駆けの言葉の様に、根性論で軒数を足で稼ぐ様な、気合いの営業スタイルが通用していました。
時代は変わり、根性論やテクニック論で商品は売れず、来店は期待できなくなっているのです。
たくさんのお店から、たくさんの商品から、自在に選択できる立場になった消費者は、一番好きな人からその人の笑顔を見ながら商品を買い、サービスを受けたいのです。
友人になれば、親戚同然になれば、少々高くてもネット販売ではなくて、親しいその人から買いたいのが人間なのです。
去年一年間で日本での利用者が倍増し、5000万人を突破したといわれるフェイスブックも、親密感を持続して味わいたいという、絆の欲求の現れだと小生は解釈しています。
奇しくも、フェイスブックも友達という言葉を使ってお互いを承認し合い、イイネという意思表示で共感と受容や承認の気持ちを相手に送り、離れていても親密感を保持します。
営業スタイルや接客姿勢を見直し、お客様と友達になる為に、自らが先に心を開いて自分を知ってもらいながら、近づく必要があると強く感じます。
お客様がオフィシャルとプライベートとの境目を設けずに楽しみたいと思っているとすれば、サービス提供者側も仕事のプロ意識は持ちながらも、もっと良い意味での親密感で近づいてもいいと思うのです。
人生を充実して生きる為には、仕事も家事も趣味、娯楽も、勉強もみんな楽しむのが一番なのですから、公私線引きや区分けをする必要はないのです。
接客や仕事が我慢、修行、荒行苦行だと思って働けば、お客様が気分を良く受け取れるはずが無いと考えます。
お客様を友として、親密感を持って楽しませるような、発想の転換が必要な時代だと思います。
それによって、人として選ばれ、店(会社)として選ばれる、真の営業力が磨かれると考えますが、いかがでしょうか。