『目から鼻に抜ける』 ― 今年を振り返って② ―
このことわざは、賢くて頭の回転が早い様子を表現する時に使われます。
また、抜け目がなくてすばしこい様子にも用いられます。
機知に富んだとか、機転が利くと言い換えてもいいでしょう。
近い意味のことわざでは、『一を聞いて十を知る』という諺もあります。
英語では、『to be as sharp as a needle』(針のように鋭い)と表現するようです。
さて、先月号に引き続き、今号でも今年起こった出来事を振り返りながら、風潮や世相、そして社会心理や流行などを探って見たいと思います。
『のど元過ぎれば熱さ忘れる』ということわざもありますが、人間はどんどん忘れていく動物といわれる通り、たった数ヶ月前の出来事でも、その時には強い印象をもったことであっても、今振り返って見ると「そんなこともあったなあ」というレベルの記憶しかないものも多いものです。
お客様が前回来店された際の記憶も、大きな驚くほど予想外の感動を除いては、次回ご来店時にどこまで記憶に残っているのか非常に心配になりました。
サロンスタッフ側も同様に、印象に残った会話は記憶に残ると思いますが、何気なく聞いているとほとんど記憶から飛んでしまっている恐れもあり、何らかの対策も講じる必要性があるとも感じます。
《鼻が利く》
先ずは今年ヒットしたものからトレンドや傾向、消費者心理などを見ていきたいと思います。
鼻が利くとは、文字通り『においを敏感に感じ取る』という意味で使う場合と、もうひとつ『(察知して)鋭く働く』という意味で使われる場合があります。
『嗅覚(きゅうかく)が鋭い』という表現もありますが、トレンドを察知して時流に乗れる人や、それより前に予知してトレンドを生み出してしまう人達は、まさににおいを嗅ぎ分ける能力があるのだと思います。
日経MJ誌の2012年ヒット商品番付では、東京スカイツリーが東の横綱、西の横綱は7インチタブレット端末となっています。
7インチタブレットはアップルのiPad miniに代表されるものです。
東京スカイツリーは武蔵(634m)の高さで、建造物としてはアラブ首長国連邦・ドバイにあるブルジュ・ハリーファ(高さ828m)に次ぐ世界第二位の高さとなるそうです。
電波塔としては世界一位の高さとなります。
5月22日に開業し、隣接商業施設『東京ソラマチ』等周辺施設も含めた来場者数が予想を大きく上回り、事業主体の東武鉄道の発表によると、当初の年間目標人数3200万人を4400万人に変更し、1200万人も引き上げたとのことです。
その引き上げた年間来場目標の6割を既に半年間で超えてしまう人気ぶりだそうです。
新しいもの、そして世界一には敏感になっているのでしょうか。
波及効果も大きいそうで、近隣の上野・浅草・錦糸町地区のシティホテルの11月の平均予約単価は1万6891円と前年同月の46%上昇(カカクコム・宿泊予約サイト調べ)したとのことです。
はとバスの展望台見学ツアーも半年で13万人を超えたとのことで、仮にバス一台平均40人のツアー客が乗ったと仮定して単純計算すると、はとバスだけで3250台のバスが出た計算になります。
一日あたり18台のはとバスがスカイツリーにツアー客を運んだことになります。
13万人のお客様単価が1万円だとすると13億円、5千円だとしても6億5千万円ですからすごい数字です。
東京タワーとパッケージにしたツアーも組んで人気だったようですし、はとバスではないと思いますが横浜のマリンタワーなども加えたタワー巡りツアーも企画されて成功したようです。
東京タワーも種々のイベントを構え来場者数が大幅アップしたとのことですし、ユニークなところでは大阪・通天閣が時期を合わせてリニューアルし、高さではなく大阪らしい『おもろさ』で大人気だったということです。
他に人気スポットとしてランクインしたのは、東急電鉄が渋谷駅直結で東急文化会館跡地につくった商業施設・渋谷ヒカリエで、4月開業からの7ヶ月間で年間来場者予測の1400万人を上回ってしまった人気ぶりとのことです。
こちらは、商業施設のみならず、ミュージカル劇場や世界最新鋭のプラネタリウムなども魅力のひとつなのかと思います。
同じような傾向は、西日本から商業施設で唯一関脇として番付に入った、阪急百貨店うめだ本店にも見られるようです。
阪急本店は今年11月に全面改装開業しましたが、個人消費の『モノからコトへ』の志向の流れに合わせて、総売り場面積の2割ものスペースをイベントスペースなどの物販以外に充てて、楽しいコトを体験できるスポットとして魅力付けして成功しています。
現在、平日に14~15万人、週末や休日には平均20万人前後の人でにぎわうそうです。
文化的広がりや、コトを楽しむといったコンセプトは、東急も阪急も同じ狙いで成功しているようにも見えます。
商業施設では世界を驚かせたジョイント施設が新宿駅東口にオープンし、番付入りしています。
ユニクロとビックカメラが共同店舗としてジョイントし、9月27日に開業した『ビックロ』です。
ユニクロのヒートテックなどの防寒着に、ビックカメラの暖房電化製品が一緒に並んだり、ユニクロファッションをまとったマネキン人形がヘッドフォンやジョーバと一緒にディスプレーされたりと、ごちゃごちゃ感のライフスタイル提案が新しいとされます。
施設としてもうひとつ、東前頭筆頭にランクインしたのが、10月に復元開業した東京駅です。
98年前の建造時の形状を忠実に再現した赤レンガの駅舎は、戦災で消失して以来の67年ぶりの復活で、その姿を見るためだけに遠回りする人が続出。
東京駅周辺商業施設の売上は昨
年比で約二割増との数字が出ているそうです。
鼻が利くとは、ひとつの現象から次に起こることをいち早く感じ取り、手を打つことができることだと思います。
スカイツリーができても、それをチャンスと捉えた東京タワーや通天閣、モノよりコトや楽しさだと見抜いた東京ソラマチ、渋谷ヒカリエ、阪急うめだ本店やビックロなど、鼻が利いた結果の大ヒットだったと感じます。
《鼻を明かす》
商品のヒットを見てみましょう。
先ずはレノアハピネス・アロマジェル(P&Gジャパン)とトップ・ハイジア(ライオン)の洗濯関連の新発想商品二点です。
レノアハピネスは、洗剤と一緒に使う衣類の香り付け専用ビーズで、使う量で香りの強さが調整できるというものです。
トップ・ハイジアの方は、抗菌成分が衣料に付着して洗濯のたびに抗菌力が高まる洗剤で、この商品の記録的大ヒットによってライオンの濃縮液体洗剤の売上高が、前年比の五割増になったと聞きます。
いずれも他社の鼻を明かす新提案、新機能製品でした。
メガネ販売のチェーンJINSを経営するジェイアイエヌは、パソコンなどのディスプレーから発する青色光を30~50%カットするレンズを使ったファッショナブルなメガネを開発し、メガネとしては空前の大ヒット中です。
普段メガネをかけていない人が、度が付いていないメガネが欲しいと買う上に、一人が何色もの色を付け変えたり、企業が全社員に付与したりするのですから、メガネの常識を打ち破った出荷数になるのもうなづける話です。
また、飲料の領域ではキリンビバレッジのメッツ・コーラが大ブレイクしたのを皮切りに、トクホコーラが大ヒットしました。
特定保健食品とは、個々の製品ごとに消費者庁長官の許可を受けており、保健の効果(許可表示内容)を表示することのできる食品だそうです。
からだの生理学的機能などに影響を与える成分を含んでいて、血圧、血中のコレステロールなどを正常に保つことを助けたり、お腹の調子を整えたりするのに役立つ等の特定の保健の効果が科学的に証明されている(国に科学的根拠を示して、有効性や安全性の審査)ということです。
それまでの飲料でのトクホはお茶やスポーツドリンクがほとんどで、美味しいという印象のものも少なく、熱烈な愛好家が多いもののあまり健康的ではないという印象をもたれているコーラにトクホができたことは、非常に驚いた人が多いと思います。
メッツはコーラとしての初のトクホ飲料で、コーラが脂っこい食事と一緒に飲まれる傾向があることに着目して開発され、なんと当初計画の7倍も売れたというから驚きです。
これは西小結で番付されました。
他に食品としては、長期間停滞気味だった即席袋麺市場で画期的麺として席巻した、東洋水産の『マルちゃん正麺』シリーズが西関脇でランクインしました。
生の麺をそのまま乾燥させる新製法で麺本来のコシと味わいを再現したことが功を奏し、1970年代から40年近く年間シェア一位に君臨し続けてきたサンヨー食品のサッポロ一番を抜いて首位に躍り出そうな勢いとのことです。
ガムではロッテのゼウスが通常の新製品では発売時200~300万個出荷が一般的なところを、700万個出る大ヒットと伝えられています。
強い刺激、ひんやりした感覚、噛みながら味が変わるなどの面白さとパッケージの斬新さなどもあってブレイクしたそうです。
鼻を明かすとは、相手を出し抜いてあっと言わせることです。
そのくらい今までにない、違った切り口やコンセプトが必要な時代なのかと思います。
《花の下より鼻の下》
花の下で風流を楽しむより、鼻の下の口を満足させるもののほうが良いということから、見栄よりも実質的な利益につながるもののほうが大事で有難いといった意味のことわざです。
似た意味のことわざでは、『花より団子』などたくさんあります。
英語では、『It is better to knit than to blossom.』(花が咲くより実がなるほうが良い)と使われるそうです。
不況期になると低単価のヒット品がたくさん出そうな気もしますが、高速バス並みの料金で乗れるというピーチ・アビエーションを代表とする格安航空会社(LCC=Low Cost Carrier)と、スマホの無料通話アプリケーションソフトのLINEが東西大関に番付されたのが目立つ程度で、他にはキャビアなどの高級食材を低単価で提供する立ち飲み席主体のレストラン『俺のフレンチ』『俺のイタリアン』や、円高による海外通販サイト利用が大幅に増えたことから個人輸入代行サイトが番付下位にランキングされた程度でした。
先行き不透明でモノ余りの上に、物価が上がらずに下がる傾向が長く続いた今の時代では、購入自体をよっぽど気に入ったもの以外は積極的にはせず、購入を思いとどまる傾向が強いのではないでしょうか。
したがって、安いからといって安易に買い物せずに、本当に納得して気に入ったもので長い期間使える良質で飽きの来ないモノを選択する傾向になっている気がします。
それが、今回の番付36アイテム中の4アイテムしか激安価格品が無いという結果になっているのだと小生は推測しています。
それでは何がトレンドのキーワードだったかというと、レトロやクラシカルといった古き良き(元気のあった)時代を懐古するデザインでありながら新しいエッセンスも入れてあるようなモノを、その当時若くてお金に余裕がなかった世代の人達がリベンジ(復讐)消費するといった傾向なのかと思います。
番付された中では黒ビールで、アサヒスーパードライの黒が予定数量の1.5倍の売れ行きで手に入りづらくなった他、各社の新製品黒ビールがヒットしました。
昨年上位に番付されて今年は番付外だったもののハイボールは昨年以上の売れ行きだったようですし、ガンダムブームに火が着いて豆腐(ザクとうふ)がランクインしました。
4月にオープンしたお台場のガンダムフロント東京も人気スポットになった他、仮面ライダーシリーズもグッズの売上が近年では最高だったとのことです。
芸能生活の区切りを迎えた山下達郎や松任谷由実のベストアルバムが大ブレイク中で番付に入りました。
前述の東京駅は大正期のレトロ建築そのものですが、阪急梅田本店も新しい高層ビルでありながら、低層階の外壁は以前のデザインを踏襲したレトロ使用で、内部にも以前使っていたレイアウトや材料を意識的に残して郷愁を誘っているとのことです。
お客様の心の琴線に触れて感情を動かし、懐かしさや楽しさをかもし出すことで購買動機につなげる必要があるようです。
美容業界に目を向けると、炭酸美容とエリクシール・デーケアレボリューション(資生堂)がランクインしました。
残念なことでは、ヴィダル・サッスーン氏が、来日と自伝映画の上映目前に死去されて、業界に衝撃が走りました。
25年ぶりの金環日食、17年の逃亡生活の上のオウム真理教手配犯3人の逮捕、隣国との領土問題、オスプレイ機配備問題、原発の存続か廃止かの問題、総選挙での政権交代等、先が見えない世ですが、来年は巳年なので脱皮を図りたいものです。
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