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『角(つの)を矯(た)めて牛を殺す』 ― 元気なサロンにするための動機付け ―

2009年11月20日

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わずかな欠点を直そうとして、全体をだめにしてしまうことをたとえた諺です。
「角を直して牛を殺す」ともいうようです。
また、「枝を矯(た)めて花を散らす」という諺も同じ意味として使われています。
「矯める」はよい形に直す、矯正するといった意味です。
牛の曲がった角をまっすぐに矯正しようとして、かえって牛そのものを殺してしまう意味から発生しました。
英語では、「The remedy may be worse than the disease.」(治療することが、病気よりも悪い場合もある)と表現されるようです。
サロンビューティビジネスは人と人との間でつくりあげられる仕事です。
お客様から喜ばれるサロンになるためには、技術・サービスを施すスタッフが一番重要な要素となります。
今回は、スタッフのやる気の問題と人間的成長について考えてみたいと思います。

《モチベーション》

「動機付け」「やる気」などの和訳をされる単語です。
動機付けとは「行動を始発させることと、目標に向かって維持・調整する過程や機能」のことを言います。
モチベーションという単語が日本に定着してきたのは、サッカーの分野で盛んに使われだしてからと思います。
日本サッカー協会(JFA)は、FIFA(国際サッカー連盟)からのルール改訂や改訂指導要項に基づいて、指導者や選手の育成をしてきました。
また、毎年サッカーの先進各国に強化委員を派遣して、最先端の戦術や指導法を日本に持ち帰っていました。
すると、それらの中に沢山の「モチベーション」という単語が並んでくるのです。
その結果として、日本サッカー協会の指導者講習会やテキスト類にモチベーションという単語が数多く使われ、全国の指導者達に波及していきます。
一方、ジュニアユースやユース世代から、日本代表候補として強化選手に選ばれた選手達(例えば中田英寿選手ら)がそれを会話の中で多用していきます。
フランスワールドカップへの初出場から、日韓共催ワールドカップの地元開催へと進む中、日本代表のサッカー中継が増え、監督コメントや選手インタビュー、解説等でもこの単語が乱発されて、日本でも認知度が高まっていきました。
日本では、サッカーを通じて知名度が広がり、次に会社組織論や教育などの分野で幅広く使われるようになったという、珍しい経路で広められた単語です。
近年は、安易に「モチベーションアップ」などと使われているようですが、もう少し深く掘り下げて考えてみたいと思います。

《動因と誘因》

モチベーションには「動因」と「誘因」のふたつの要素があるといわれます。
「動因」とは、人の内部、つまり心にあって行動を引き起こす要因となるもので、英語では「drive」と表記されるものです。
当コラムでも何度も取り上げているA・マズローの欲求階級説でいうと、1次的欲求の生理的欲求から、2次的欲求の安全の欲求、3次的欲求の所属の欲求、次の自尊の欲求、さらに自己実現欲求と順番に進みながら、それぞれの段階でその為の動機付けが、心の中に自然になされていきます。
このように、心の内部から欲求に基づいて自然と生じてくるのが「動因」です。
他方、「誘因」とは人の外部にあり、人の行動を誘発させていくもので、英語では「incentive」と表記されるものです。
いわゆる「アメ」(=報奨・ごほうび)や「ムチ」(=罰則・強制)の外的刺激要因=「誘因」により、『動かなければ』と心の中にある「動因」を動かして行動に移していくというものです。
もうひとつの区分の仕方としては、「生理的動機付け」と「社会的動機付け」という分け方もあります。
「生理的動機付け」とは生存の為に、また人間としての本能や、個人の性質により自然と発生するものです。
「社会的動機付け」とは、社会との関わりを通じ心の中に生まれてくるものです。
「社会的動機付け」にも、大きく分けると2種類の動機付けがあります。
ひとつは「外発的動機付け」で、課題や目標を達成できた時に得るもの(ごほうび・認められる・誉められる等)、逆に未達成の時に得るもの(罰・怒られる・バカにされる等)の「誘因」を使った動機付けです。
例えば、親から「いい学校に進むために勉強しなさい」と言われている小学生がいたとします。
でも、その子は全然勉強をせずに、ゲームばかりしています。
《対策①》・・・
親は、その子をやる気にさせるために言いました。
「一時間勉強したら、ゲームしてもいいよ。」、「今度のテストで100点取ったら新しいゲームを買ってあげるから勉強しなさい。」  ゲームをしたいその子は、勉強するようになりました。
《対策②》・・・
親は、その子をやる気にさせるために言いました。
「いい学校に行くと、将来幸せになれるよ。」
それでもやる気にならないその子を見て、今度はこんな風に言います。
「勉強しないと、大変なことのなるよ。ゲームばかりやっていたら、将来ろくな人生にならないよ。」
「大変なことになる」、「ろくな人生にならない」というのを聞いて怖くなったその子は、勉強をするようになりました。

これが外発的動機付けです。
「外発的動機付け」の結果、①でも②でも子供は勉強をするようになりました。
しかし、このような「外発的動機付け」による行動というのは、「ゲームがしたい」、「ろくな人生になりたくない」といった目的を達成させるための行動となるので、長続きしなかったり、意欲的になれなかったり、強制されている感覚を持ったりするものです。
この子は勉強に興味や意欲があるのではなくて、仕方なくやっている感覚なのかも知れません。
では、この子が興味や意欲を持っているものは何なのでしょうか。
この場合、興味と意欲を持っているのはゲームです。
ゲームのためなら、嫌な勉強までしてしまうほどの興味や意欲を持っています。
このような興味と意欲によってもたらされる動機付けを「内発的動機付け」と呼びます。
「内発的動機付け」からの行動とは、それによってもたらされるごほうびと罰(アメとムチ)とは関係ない上、その行動そのものが目的となっています。
つまり、ゲームをすることで何かを得ようとするよりもゲームをすること自体が彼の目的となっています。
ゲームをする為には、勉強もするし、新ゲームを買うためにお手伝いもしてお小遣いのやりくりもするなど、自ら積極的に行動します。
ゲームに飽きるか、他にもっと興味のあることができるまでそれは続くはずです。
意欲的に取り組む「やる気」と「継続」には、この「内発的動機付け」が大きな影響を持っています。
しかし、実は私たちの持つ動機には、片方だけでなく、内発と外発のどちらも持ち合わせているとのことです。
外発が誘因となり、内発が動因となることもあります。
やる気が出ない、継続できないという場合には、その動機が外発的なものなのか、内発的なものなのかを、チェックすると良いそうです。
チェック方法としては、「それは頼まれなくてもやりたいことですか?」「それはお金を払ってでもやりたいことですか?」と問いかけてみることで、その答えがNOであれば外発的、YESであれば内発的となります。
自分の外側からやってくるものではなく、自分の内側から湧き上がってくる興味や、意欲、これが「やる気」や「継続」の源になります。
《やる気とは》

「やる気」は、自分の外側からやってくるものではなく、自分の内側から自然と湧き出て来るものです。
人から強制されて出てくるものではないし、自分自身で強制的に出そうとして出せるものでもありません。
現在では、脳科学研究の結果として、そのように結論づけられているそうです。
つまり、やる気がない人に「やる気を出せ!」というのは、ヒトという動物に「空を飛べ!」というのと同じくらい、無理な注文だということです。
長い間日本では、精神修養を美徳とし、「根性」「努力」「忍耐」などで念じたことは通じるとされてきました。
ひとつの分野でそれを極めた達人から見れば、自分が出来たのだから、他の人もできない筈が無いとの思いが、精神文化の世界を支配してきた面もあります。
現在に至っても日本では、企業内でも学校教育でもこの様に「やる気を出せ!」といったら出せるという考え方が残っているようです。
日本が先進国の中では突出して、うつ症状の人が多いのも、自殺者数が多いのも、この様な精神風土が原因と唱える学者もいます。
そうしたイメージを引き継いでいる人からすると、やる気は「出そうと思えば出せる」と考えているので、どうしてもアメとムチで他の人を強制したくなりがちで、部下や後輩の内発的に伸びる可能性をつぶしてしまう場合もあるようです。
人により差はあるでしょうが、やる気満々の人は、エネルギッシュでテンションが高く行動的であるというように、やる気を感じる時には高揚感が伴い、体の中心からエネルギーが間欠泉の様に噴出して出るイメージを持つ人も多いようです。
この様な「やる気」は、瞬発力はありますが、継続しにくいようです。
噴出すときの勢いはすごいのですが、常に噴出しっぱなしではなく、一定時間で勢いが落ち、次に噴出すまで出てこなくなりがちです。
逆に、「継続するやる気」というのは、少し性質が異なるそうです。
勢いや水量はありませんが、絶え間なく湧き出し続けてるのがその継続的なやる気。
まるで、山の奥深くでチョロチョロと湧き出す小さな水源のようなもの。
細い水の流れを見て、「流れてるね」と感じる程度なのと同様に、この種のやる気には高揚感は伴わず、「ああ、そんな気持ちもあるね」などという感覚レベルなので、気付きにくいとのことです。
私達がいつも想像する「メラメラと燃える様な」モチベーションというのとは明らかに違うようです。
これが理解できれば、自分が常にギンギンではないので、やる気が無いのではと、自身を責める事も無くなってくるかもしれません。
静かに自分の内部を流れ続ける「継続するやる気」を感じ取って、それを育んでいくのがモチベーションへの第一歩かも知れません。
経営者や、上司、先輩、指導者側は、外圧によって目に見えるやる気を要求するのではなく、静かに内面を流れる「やる気水流」を見つけ出す努力をして、それを育てるお手伝いをしていくことが大切です。
本当に強いサッカーチームを創る秘訣は、チーム全員がフィールドの中で内発的動機付けによるチームとしてのモチベーションを持って、組織人としての個人と、組織全体の課題をクリアしようと動くことだそうです。

《エイトデイズ・ア・ウィーク》

勤勉を美徳とした日本には、休日返上で働くという意味を表す慣用表現として、「月月火水木金金」というものがあります。
大日本帝国海軍が日露戦争勝利後に、ワシントン・ロンドンの両軍縮条約により、艦船の数的不利に追い込まれた結果、休日返上で猛特訓を繰り返す事になり、休めない水兵が自嘲気味にこの言葉を発したのが始まりといわれています。
これを海軍中佐の高橋俊策氏が作詞、江口源吾氏が作曲して軍歌となり、太平洋戦争中はレコード化されて海軍省軍事普及部推薦曲となったそうです。
戦時中には、この言葉は勤務礼賛の標語として、国民の間で広く使われました。
ビートルズのヒット曲に「エイトデイズ・ア・ウィーク」という曲があります。
ある日、ポール・マッカートニーは、乗ったタクシーの運転手に仕事がきついかどうか尋ねたそうです。
その運転手は、「一週間に8日間働いているようなもんさ」と答えたとのこと。
「月月火・・金金」と同じ意味のことです。
すると、ポールはすぐにその日の午後には有名なヒット曲「エイトデイズ・ア・ウィーク」を書き上げてしまったとのことです。
最初に自嘲気味に「月月火・・」と発した海軍水兵は外発的動機で仕方なく働かされているという思いを口にしたのかと思います。
ポールを乗せたタクシー運転手は、楽しみながら休みなく内発的動機で働いているのか、或いは外発的に働き続けなければならない動機を強制されていて「エイトデイズ・ア・ウィーク」といったのかは不明です。
それをすぐに曲にしてしまったマッカートニーは、内発的思いから歌にしてと考えつき、大ヒットにつなげたのではないでしょうか。
内発的なモチベーションアップには、自らの楽しさやワクワク感というものがどうしても必要なのです。
社員(スタッフ)がやらされているという、追い込まれた感覚や悲壮感を持って仕事をすれば、接するお客様も楽しい筈がありません。
指導する、注意する、叩き込むというスタンスの前に、愛情を持って育むことや、良い点を見つけて、誉めて、自信を持たせて、伸ばすという思いが必要と思います。
次の世代に、自分の身につけたものを受け継ごうすると、「どうしてわかってくれない」、「私には誰も教えてくれなかった」などのたくさんの葛藤が出てきます。
そういった葛藤が、自分が今取り組むべき課題を教えてくれて、自身の人間的な成長につながっていきます。
教える側と教えられる側の両方の成長につながります。
教えていただいたことは、教えていただいた人に返すのではなく、次の世代に教えていくことが重要です。
教えてもらえなかったことは、教えてくれなかった人を恨むのではなく、次の世代に教えていくことです。
そうする事で、自分自身が成長し続けて、関わる全ての人(スタッフ・お客様・業者)などが、次々に集まってくる活気あふれるサロンがつくれるのではないかと思います。
そのためには、牛の曲がった角を無理に矯正しようとする前に、その牛の足の速さや、お乳が沢山出るところなど、良い点を見つけだして、その特徴を伸ばしながら活かして行くことが大切ではないかと思います。
サロンビューティビジネスは、やはり人が一番大切な資源だと思います。
この人達が活き活きと働き続けられる様に内発的に動機付けすることこそが、経営者の一番大切な仕事と思いますがいかがでしょうか。
今回は神戸メンタルサービス合資会社カウンセラー・木村祥典氏コラム「やる気の心理学」、同社カウンセラー・大門昌代氏コラム「育む力」、英治出版刊・「選ばれるプロフェッショナル」J・N・シース/A・ソーベル共著・羽物俊樹氏訳を参考にいたしました。