美容総合商社の株式会社マックスです

〒545-0052  大阪市阿倍野区阿倍野筋4丁目18-6

『駕籠(かご)に乗る人、担(かつ)ぐ人』 ― お客様に愛されるサロンを目指して ―

2009年10月20日

戻る

「箱根山、駕籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋(わらじ)を作る人」という短歌が起源の諺です。
この短歌は古典落語の人情話「白子屋(しろこや)政談」に登場するものです。
大岡越前守忠相による俗に言う「大岡裁き」を題材にした落語だそうです。
「日本列島改造論」や「ロッキード事件」で有名な元総理大臣の故・田中角栄氏が好んでこの短歌を使って例え話をしていたそうです。
彼は当時の首相経験者の先輩政治家や、総理を争っていたライバル達がほとんど東大卒の超エリートだった中、中卒の草の根庶民派政治家として、人情と義理を売り物にしていました。
ですから、この短歌をつかって、かごに乗って目だっている人は、かつぎ手やかごを作る人やわらじを作る人によって支えられていて、それではじめて自分も生きられる、すべての人々が、天に与えられた役割をこなしているから社会が成り立っているものだということを話していたそうです。
ジャーナリストの田原総一朗氏によると、田中角栄氏の愛弟子で後に首相になった故・竹下登氏は「汗は自分でかきましょう、手柄は人にあげましょう」というのが口癖だったそうです。
竹下氏は、DAIGO(ウイッシュ!)の祖父です。
さて、諺としての「駕籠に乗る人担ぐ人」は、短歌の最初の意味から少し離れ、「世の中には、境遇や運命などによって、様々な職業や貧富の差などがあること」の例えとして使われることが多くなったようです。
しかし、本来の意味の「職業や地位の違いによる生き方は様々でも、その人達がつながり合い支え合って世の中が成り立っている」ことの表現でも使われます。
英語では「Some people are born with a silver spoon,and some without.」(銀のスプーンを持って生まれる人ばかりではない)と使われるようですが、これは境遇や貧富の差の方を指す表現と思います。
どんな仕事も一部の目立つスタープレーヤーだけでは成り立たないものです。
今回は、お客様に喜ばれる店作りを目指して、店舗としての魅力づくりと、サロンの総合力の強化について考えてみたいと思います。

《行きたくなる店》

このテーマについては、本欄で何度も繰り返し掘り下げてきました。
理美容サロンにこだわらず、一般的な消費者心理と、理美容業に限らない、店舗全体で考えてきました。
過去の考察を整理してみると、人が集まる店舗の要素には以下のようなものがあります。
まず、お客様がお店に入る行為には、楽しくワクワクして店を訪れること自体に喜びや幸福感を感じる来店(=心を豊かにする消費)と、行きたくないが渋々行かなければならない来店(=生活必需の消費)の2つの消費種別に分けた来店行動があると述べました。
びよういん(美容院)と、びょういん(病院)は、「よ」の大きさが違うだけで「よろこび」が大きく違うとも考えました。
「美しい容姿に生まれ変われる」、「大好きな店舗スタッフ達と会うのが楽しみで元気をもらえる」など、来店して生き方までもが変わる可能性まであるのが、理美容サロンであり、「心を豊かにする消費」をしてもらうことが可能なのです。
美しくなって心が癒され、生き方までも変わるという、長崎大学の故・難波名誉教授が名付けた「形成治心」が可能な業種が美容です。
逆に、病院や役所にワクワクしながら喜んで出かける人は非常に少ないのではないかと思います。
病院は辛い苦痛から逃れたり、それを癒したりする為に仕方がなく通っているのが実情ではないでしょうか。
役所も同様に、手続きや届出をしなければならないので、待たされるのを覚悟の上でやむを得ず出掛けている人が多いのではないかと思います。
「仕方なく・・・せねばならない」は「生活必需の行動」で、「心を豊かにするために楽しみに行っている行為」ではないのです。
足を運ぶ側の人達が嫌々出掛けていったとしても、お迎えする側が自分の仕事に誇りを持ち、生き生きと輝いていれば、痛い思いをする側も長時間待たされる人も気持ちが良い時間を過ごすことができるものです。
ところが、お迎えする側が自分の仕事に魅力を感じていなかったり、足を運んでくれて有難いという気持ちを持っていなければ、心の通わない作業的応対になってしまい、来訪者に失望感を持たせてしまいがちです。
たとえ、生活必需の目的で仕方なく足を運び、大きな期待感を持たずに来店している場合でも、気配りの一言や笑顔の応対が無い接遇をされてしまうと、二度と行きたくないところとの印象が残る可能性があります。
病院であれば、他の病院に変えるという選択肢もありますが、役所であればそこに行かざるを得ないので、嫌いなところへ足を運ばなければならないという、気持ちの悪い感情を引き続き持ち続けることになります。
さて、私達のサロンビジネスはファッション産業ですので、一般的には「心を豊かにする消費」なのですが、そうではなくて「生活必需の消費」として考えている消費者も思った以上に多いと考えられます。
つまり、髪が伸びてしまったから「仕方なく切りに行くか」というお客様です。
「楽しみに」来店するのではなく「やむを得ず」来店してこられるお客様です。
「いつもの通りで良いですか?」「いつもの通りでいいです。」・・このやりとりの後に、楽しそうな会話が続かないお客様は要注意です。
元からのヘアスタイルを、妥協できるレベルまで現状復帰させていく事で、不満足のレベルから我慢できる最低点まで何とか回復出来れば良し、と思うお客様も多いのです。
満足ではないが、不満足なレベルは脱したという思いで、感動はしていない状態かも知れません。
何年も同じスタイルを貫くお客様には、これが本当に私の一番似合う髪形だと納得して頑固に変えない方も勿論いらっしゃいます。
しかし、それはむしろ少数派で、変身願望を持ちながらも「新しく他の店に入るのは勇気がいるので、知った技術者がいて、料金も手頃だし、新たに細かく説明をする必要も無いので、今までの店で良いか、行くのは面倒だけど」と考えている人も以外に多いことは認識しておくべきと思います。
この様な状態のお客様は「生活必需の消費」としてサロン訪店を考えています。
生活必需の消費は節約対象の消費ですので、不況期には来店サイクルが伸びてしまいがちになり、低価格のサロンに移ってしまう可能性もあると思います。
ですから、そういったお客様が、同じサロンに仕方なく一生通い続けると考えるのは大きな間違いです。
お客様の心を開く会話をしっかりし、髪質やライフスタイル、ファッション傾向や似合う色など割り出して、新しい自分の魅力を引き出す「新しいヘアスタイルの提案」をしていき、お客様の満足の線を突破して、劇的変身で感動を呼び起こせば、次回来店からはワクワクしながら、「心を豊かにする消費」のために来店してくれることに変わるのです。
この様なお客様が非常に多いことは、消費者アンケートによって明らかになっていますので次項で説明を加えます。
もうひとつ、行きたくなる店のポイントは、楽しいこと、気持ちが良いことです。
気持ちが良いということは、お客様が体で感じる心地良さも有りますが、もう一方で心で感じる居心地の良さや空気感といった、快適さもあります。
サービス業は、自分の仕事が大好きで幸福感を感じて働くサービス提供者から受ける技術や接客を、お客様も幸福な気持ちで受けられるものなのです。
公園や校庭で子供達が後から、どの遊びに加わるかを見ると、一番楽しそうに遊んでいるグループに参加する可能性が高いといいます。
ブランコや、スベリ台が好きだからと、好みで選ぶ前に、本能的に引き寄せられるといいます。
お客様が心を豊かにする消費をする際に、お店を選ぶ潜在的要素には、楽しそう、スタッフが生き生きと働いているなど、外から感じ取れる空気感も大きな影響を与えているとのことです。
また、理美容業種は長時間滞在する特殊な業種です。
歯医者さんと同様、お客様は長時間自由を奪われて拘束される面もあります。
お客様の目から見ると、クロスをかけられると手を自由に使えなくなり、トイレにさえ行きづらい状態になり、あちらこちらに移動など、お店の方の指示に従って動くしかないカゴの鳥状態となります。
歯医者のベットに寝た際に、医師に全てを任せるしかない「マナ板の上の鯉」状態に置かれるのと同様に、シザーという刃物の前で、手足の自由を奪われたお客様は、不安感を多少持ちながら技術者に身を委ねるしか無いのです。
ですから、お客様が口に出さずとも持つ不安感を取り除く心のケアが必要です。
まず技術前に毛髪に対してのケア方針、スタイル提案をしっかりとして合意し、不安を取り除きます。
次に施術中は実施中の技術や薬液について説明を加えながら進め、終了後はお客様の満足度のチェックと、場合によっては修正を加えることで、より安心感を高めます。

以上が以前から考察してきたことのまとめになります。

《安心感》

財団法人全国生活衛生営業指導センターが先頃、「消費者から見た美容店の安全・安心とは」というアンケート結果を発表しました。
全国の15歳以上の一般消費者で各年代を網羅した2000名に調査をかけて、1718名回答(内女性89.8%)を集計したもの。
それによると、美容室の安全・安心に絶対必要な条件は、「サービス前に客の要望を十分に聞いてくれる」が断トツの1位で51.9%の人が必要と言っています。
第2位は、42.9%の「分かり易い料金表示である」で、これも3位の「店内が清潔・快適に管理されている」の31.4%を10%以上離しています。
お客様とよくお話をすることについては前項でも述べたので、2位の料金の分かり易さについて見てみます。
メニューについての分かり易さも、過去何度も本欄で考察を繰り返してきました。
今回のアンケートでは「絶対必要だと思う項目は」という質問の他に、「利用店で実施されているか」との質問もありました。
分かりやすい料金表示については、「利用店で実施されているか」では「はい」が69.7%と、3割のお客様が料金表示に不満との判断をしています。
アンケート調査は、比較的に好意的なお客様が返信しやすく、不満を持つお客様は返信しない傾向があるので、料金表示に不満のお客様の割合は3割よりもう少し多くなるのではないかと思われます。
以前から本欄では、「業界内でしか通用しない専門用語をメニュー名にしている」、「メーカーの付けた品名をそのままメニュー名にしている」等、消費者が解釈不能で、仕上り感や快適さがイメージできない為に、お客様がオーダー行動を起こしづらいメニューの弊害について考えてきました。
もうひとつ、明朗な料金についても考えてみます。
リーズナブルというと、「安価な」という印象を持つ方が日本では多いようです。
正確には、「理にかなった」「根拠がある」など、価格と価値とのバランスが取れていることを意味します。
では、お客様はどのようなときにこの「お値頃感」を感じるでしょうか。
最近の消費者調査では、「明示された料金で済む安心感」が、重要な点として挙げられています。
飲食店でもセットメニューをオーダーすると、飲み物や単品などの追加がなければ、明示された料金ピッタリの支払いになります。
ワインもビールも料金がはっきりしているので、その分を足し算すれば金額が明確になる仕組みです。
例えば車とか家のような高額な買い物をする際には、値引き交渉があった後の本体価格に加えて、不動産取得税や車輛税、重量税、付帯工事や改良、オプションなどで、意に反して当初予算を上回る金額になる場合も多いものです。
プロでないと計算できない、購入者側では推測できない要素も多いだけに、不本意ではあっても、最後は納得せざるを得ないものです。
高級料亭や寿司屋での時価と呼ばれる料理を注文する場合でも、この店なら総額いくらぐらいと何度か足を運ぶうちに分ってくるので、想定内の支払になると思います。
価格の明示されないこの様な店は、我々庶民は何か特別な折に利用するのが関の山ですので、行った時にはある程度覚悟を決めて行っているものと思うのです。
ナイトクラブで原価数千円のウィスキーが、雰囲気と接遇によって十数倍にまでなる可能性があるのも、利用者側が「理にかなった」価格と判断し店に入るので、心を豊かにする消費と言えると考えられます。
サロンビジネスの業界では、現在は単品メニューの表示が多いと思います。
単品メニューは、これとこれを足し算して、これを追加して、店販品を買って「結局、こんな金額になってしまった」となり、心を豊かにする為のお金を余分に持って来られたお客様だけが対象客になってしまいます。
お客様が判断し易いメニューにするために技術内容とお支払い総額を考慮した上で整備して、時代に合ったリーズナブルコースに組み直すのも一案かと思います。
「かごに乗るのはお客様」で、技術者ではありません。
かごを「かつぐのがサロン」、「わらじを作るメーカー」と、「わらじやひょうたん水筒を用意するのがディーラー」です。
お客様に気持ち良くかごに乗っていただけるようにすることが、愛されるサロンづくりの第一歩と思いますがいかがでしょうか。
次号では元気なサロンにする為の動機づけについて考えてみたいと思います。