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『鶏口(けいこう)となるも牛後となるなかれ』 ― 美容業界への新人を迎えて ―

2009年04月20日

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中国の史記に載った故事から出た諺で、省略して「鶏口牛後」ともいいます。
「鶏口」はにわとりの口の意味で、小さな組織の長の意味を指し、「牛後」は牛の尻の意味で、強大な者に従って使われる者の例えです。
大きな団体や組織の末端で使われたり命令されたりする部下になるよりも、小さな組織でもいいから、その長となった方が良いという考え方を言った諺です。
同じ意味の諺では、「芋頭(いもがしら)でも頭は頭」、「鯛の尾より鰯(いわし)の頭」などがあります。
「芋頭」は里芋の球茎を指し、親芋や種芋と同義です。
英語では、「Better be the head of a dog than the tail of a lion.」(ライオンの尻尾になるんだったら、犬の頭になるほうが良い)と表現する様です。
理美容業界にもフレッシュマンが大勢入ってきました。
サロンスタッフ、メーカー営業等業界に新しい風が吹き込まれていると思います。
一人加わっただけでも雰囲気が変わるものです。
より良き業界とするためにも、業界を上げて皆で育てるという視点も必要なのではないでしょうか。
そこで今回は、人の育て方を考えると同時に、改めて私達ビューティビジネス業界の素晴らしさを見つめ直して、より多くの人々にそれを語れる様にしていきたいと思います。
これにより、新人に素晴らしさを一刻も早くわかってもらうと同時に、より多くの人々にこの業界の魅力を知ってもらい、業界従事者が少しでも増加すればとの願いを持っています。

《金の卵》

「金の卵」は元々は手に入りにくい貴重なものを意味する単語として使われていました。
高度成長期に地方から大都市への集団就職する若者達を表現する代名詞として使われるようになり、現在では、将来に期待が持てる若者のことを呼ぶときに特に使われています。
先日、理美容学校新卒者を中心とした春の理・美容師国家試験の合格者数が発表になりました。
理容師は、全国で受験者が1635名で合格者数が1149名という寂しさ。
厚労省の平成19年度発表の理容所数13万6528軒で割り算すると、合格者の新人は理容所119軒に1人しか行き渡らない計算になります。
一方、美容国家試験の受験者は2万3134人で、その内、80.5%の1万8623人が合格しました。
10年程前より毎年約2万5千人平均の合格者で数年前まで推移していましたが、その後2万3千、2万2千と減少傾向となり、昨年ついに2万人を下回る1万9299人となり、今年はそれをまた更に下回りました。
10年前の1999年はカリスマ美容師ブームの時代で、その翌年2000年は、木村拓哉が美容師に扮したドラマ「ビューティフルライフ」の大ヒットもあり、業界が若者達の注目を集め、2000年~2002年頃は美容学校の入学者数が急増します。
その人達が卒業した後に、入学者数が減少に転じ、ついに試験合格者数が2万人を下回ってきた流れです。
そのため、美容業界従事者も2000年から2003年頃までの間の免許取得者の人数が多くなっていると思います。
美容業界に対し大きな夢を持った積極的な若者がたくさん流入していた良い時期だったのです。
サロン経営者も人材が確保しやすい時期とみて、支店開店を活発化させたこともあったかも知れません。
こういった美容業界の注目度が増した時期が過ぎ去り、日本では好景気が長期間に渡ったため、他の業種の採用が活発化していったこともあって、ビューティビジネスを目指す若者が減少してきたのが近年の現象だったと思われます。
ここで問題なのが、ここ5年程に渡り年間免許取得者総数のおよそ半分しか理美容業界に入ってきていないという事実です。
免許は取ったもののこの仕事への適合性に自信が持てない、仕事は好きだが手荒れがひどい、希望サロンへの入社順番が回ってくるまで就職浪人する、業界に対しての夢が感じられない・・等、理由は様々です。
結果として半数前後の免許取得者が、一般の企業勤めをしたり、化粧品メーカーやエステやネイル、フォトスタジオなど近い業種に就職したり、フリーターとして希望サロン就職まで待つなど、業界から距離を置いてしまっています。
非常にもったいない話です。
今春の美容免許取得者1万8600人の半分の9300人しかサロン業界に入ってこなかったとすると、21万9000軒(厚労省平成19年調査)にどの程度行き渡るかと計算した場合、23.5軒のサロンに対し一人の割合という驚くべき数字になります。
もちろん大型店や多店舗サロンで大勢採用されてしまうと、単独店、個人店に新免許取得者が入る確率はその十数分の一、あるいは数十分の一にまで低下する可能性があります。
ひょっとすると既に、中小規模サロンにとって新卒免許取得者が入る可能性は百軒に一名、三百軒に一名などのとんでもない確率になっているのかも知れません。
また、就職希望者が都市部に集中して、郊外や地方のサロンは更に求人で苦労されているのかも知れません。
いずれにしても、現在新卒技術者は金の卵どころか、プラチナの卵かダイヤの卵と呼んでも良いほどに貴重な存在となっているのかも知れません。
若者人口自体が減少していることで、看護学校(定員数最大)を始めとする専門学校のほとんどが定員割れしている点や、大学も生徒の奪い合いをして生き残りをかけている事実も付け加えておきます。

《鉄は熱いうちに》

金の卵なのだから、大切に育て金の鶏にして、また金の卵を続々とつくる親鳥になってもらいたいものです。
業界に身を置く人総てで業界の宝として育て上げる気持ちが必要だと思います。
そうすることによって、業界がより良く発展し、異業種の人々から尊敬と羨望の目で見られ、少年少女が将来なりたい職業として目指す様な、人気の業界に変わっていくと信じています。
理美容師の社会的地位の向上、業界の底上げとは、このようなことから始まってくるのではないでしょうか。
ただし、今の現実も直視しておく必要もあります。
それは、高額な費用をかけて美容学校を出て国家資格まで得たのに、業界に約半数の人が入って来ない事実。
さらに、一本立ちする前のアシスタントの段階で離脱してしまう資格保持者が非常に多いという事実。
そして、私達の業界は法律によって資格制度で縛られているので、国家試験受験者を増やし、その合格者を一人でも多くサロン就職させないと将来的にしぼんでしまうという当然の結末を意識することです。
今でもサロン軒数が過剰なので、自分のところが競争に打ち勝って生き残り、競争に生き残れなかったサロンが廃業することで、需要と供給のバランスが保てるので、結果的にその方が良い業界になるとお考えの経営者も一方ではいらっしゃるかも知れません。
しかし、若者からそっぽを向かれて人材が激減する業界になってからでは立て直しが難しいと思います。
「鉄は熱いうちに打て」とは、「Strike while the iron is hot.」が和訳されたものとのこと。
直訳すると鉄は真っ赤に焼けている時が打って鍛えるには一番良いという諺です。
人間も同じで、純真な心を失わない若いうちに鍛えておかないと、後からでは思うように効果が上がらないという事を言ったもの。
もうひとつの意味は、ものごとは時期を逸せず、皆の情熱が燃え上がっているときに行えということです。
ところが、希望と意欲に燃えて入ってくる新スタッフに対して、先輩側が逆にその火を消してしまっていることはないでしょうか。
迎える側もそれ以上の熱い情熱を持って働いている姿を見せ、新人をもっと熱くして鍛えられる環境にする必要もあるのです。
一番重要なのは既存スタッフが生き生きと働くことで、新人スタッフも必然的に意欲が更に高まり、活気が増幅して、それに好印象を持ったお客様もサロンの雰囲気を更に良くした結果、お客様が吸い寄せられるように増えるサロンへと好循環していくことなのです。

《躾(しつけ)とくせ》

活気あふれる職場とは、そこで働く人々が「人のお役に立ちたい」「よい仕事を生み出すのは自分たちなのだ」と発想し、自分を起点とした行動により「自分が引っ張る」「自分が知恵を出す」など、仕事にやりがいを見い出して、仕事に人生を賭ける気概を持つ人が多い職場であると思います。
そういった職場では「言われたことしかやらない」という意識は無くなり、そこに新たに加わる人々も必然的に同じ様な積極的考えで取り組むようになります。
このような「よい行動」が、一部の人ではなく組織全体に広がる為には、まず「挨拶の励行」「整理整頓の徹底」といった土台となる約束事を守ることが必要です。
これは「しつけ」の領域で、日常的な習慣として「良い行動」が定着して、組織の全員が無意識に繰り返すようになる基礎となります。
この「しつけ」の土台の上に、それぞれサロン独自の「良いくせ」を定着させる必要があります。
個人と同様に企業にも「くせ」があります。
基本理念や目標が落とし込まれた「独自の価値観に基づく行動習慣」で一種の組織文化というものです。
全員が共通の価値観を理解、共感し、それが日常的な行動習慣に落とし込まれ、年月を経て組織の良質なくせにまで発展していきます。
新スタッフの教育というのは、新人だけの「しつけ」「くせづけ」だけではなく組織全体が高め合い、そういう体質に新人が付いていき、「良い習慣」を自然に身につけていくことなのです。

《大脳生理学》

医学博士の林成之氏によると、社会システムは脳が本能的に持っているたった3つの欲求に集約されているとのことです。
その3つとは、「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」という本能。
「生きたい」+「知りたい」という欲求からは科学が生まれ、「知りたい」+「仲間になりたい」からは文化が生まれ、「仲間になりたい」+「生きたい」からは宗教が生まれたそうです。
この宗教が占めていた役割を、現代ではビジネスが代わりに担っているそうです。
ですから、「仲間になりたい」=集団欲と、「生きたい」=生存欲を誰もが持って入社してきます。
そして、「この集団で力をつけて自分らしく成長し、組織に貢献したい」との思いで燃えているはずです。
この成長欲求を、チームで同じ目的で仕事をする姿勢を身につけることで達成感を味わい、更に自らの成長した実感を覚えることができれば、辞める人は激減してくるに違いありません。
それには新しい仲間を迎える側である既存メンバーが、愛情を持って育てるように接し、期待感や夢など皆でたくさん語りかけてあげる必要があると思います。
大脳生理学は、脳が持つ能力で体や人生に影響が及ぶことを調べる学問です。
例えばバラク・オバマが「Yes,We can.」を連呼しましたが、「イエス」と「できる」という前向きな言葉を繰り返すと、脳の思考回路が「できるためにはどうしたら良いか」と前向き思考に転換し回り始め、できる確率が高くなります。
「イエス」は人を動かす言葉で、感情に訴え行動や反応を引き出して周囲を動かすことができる言葉との事。
もちろんそれ以上に自分自身の最大級の能力を発揮する可能性を脳の働きによって引き出すこともできます。
「はい、やってみます」と口にすることは、自分を信じる勇気を出して一歩前進していくことです。
誇りと責任を自分と周囲に示して、成長に歩み出す行為となります。
逆に「NO」と言い始めると、多くのことに「ノー」と言う方向に脳が働き出し、結果的に自己の成長を停滞させることになります。
同じ様に「疲れた」「難しい」「無理だ」「できない」などの否定的な単語を口にすると、この否定語が意欲低下と思考力低下を招き成長を止めてしまうとのこと。
これは脳に入った情報が、好き嫌いを決める側坐核(そくざかく)という細胞を通って前頭葉に送られる際のメカニズムによるもの。
好きな情報が入ると側坐核は興奮し、その情報は脳の深部で何度も往復して脳を活性化させるそうです。
自分の好きなことがどんどん覚えられるのは、脳が活性化して記憶力や理解力が高まるからだそうです。
逆に嫌なことなど否定的なことが入ってくると、そういう情報は拒否したいので神経細胞はあまり活性化せず、考える能力や意欲は落ち、記憶力も鈍るとの話。
また、側坐核はドーパミンA10神経群の中にあり、喜びや快感のホルモンと言われるドーパミン分泌にも関係があると言われます。
ドーパミンが出ると自然と笑顔になったり柔和な顔になり、その顔を見た周囲の人達も、ドーパミンが分泌されて、相手のことに好感を持ったり、応援したくなったりするとのこと。
否定語を使ってしまった場合と、「YES」でニッコリ対応する違いで非常に大きな結果の違いが出ます。
毎日かつ何年も否定語を使い続けると、自分の人生で大きな損害が出てしまう様にさえ感じます。

《鶏口の時代》

述べてきたように、新人が入るということは迎え入れる側のステップアップもでき、良い影響を先輩社員も受けることも可能で、組織全体の教育や活性化が計れるチャンスと捉えるべきだと思います。
新スタッフの立場で考えると、組織の単なる歯車となっていく「牛後」の立場よりも、規模の大小にかかわりなく、自分の積極性を先輩方に期待され、また今後多数のお客様と直接触れ合う中で自分のアイデアを発揮できる様な、「鶏口」になることが可能なサロンに勤務する幸せを早く味わってもらいたいと思います。
不況期ほどその違いも出せるように思います。
それをわかってもらうためにも、迎えるサロン環境を前向きで明るく「YES」一杯の環境にしていく必要もあると思います。
最後に、免許をお持ちで、一時理美容業から離れた方や、子育てが一段落して復帰可能な技術者も多数いらっしゃると思います。
そのような方も含め、理美容業界に新しい風を吹き込んでくれるよう、魅力を業界全体で高めたいと考えますがいかがでしょうか。

今回は、日大総合科学研究所教授・林成之氏著「ビジネス・勝負脳」(ベスト新書)、ローランド・ベルガー会長・遠藤功氏著「現場力復権」(東洋経済新報社)を参考にしました。