『流水は腐らず』 ― じっと我慢するより大切なこと ―
中国の秦の時代に呂不韋(りょふい)という人が、高名な人達を招き、その話を本にしました。
その書が『呂氏春秋』(ろししゅんじゅう)で全26巻あります。
その書の中に出てくる『流水不腐』が諺になったものです。
常に流れている水は、よどんで腐ることがなく、それと同様に常に動いている『モノ』は、沈滞したり腐敗したりすることがないというたとえで使われます。
ここで『モノ』とカタカナで表現したのは、個人としての「者」ばかりでなく、組織的な「人の集団」や「物」としてもこの諺が成り立つからです。
近い意味の諺としては、『転石苔を生ぜず』があります。
ころがる石にはコケは生えないというものです。
英語では「A rolling stone gathers no moss.」(回転する石にコケは付かない)と表現されます。
経済活動でも生活面でも、「厳しい時にはじっと我慢しろ」、「動くな」、「慎重に」と周囲から次々と現状維持論に近いメッセージが飛んできます。
私の考えでは、低迷した時期に遭遇した時に、どの様なアクションを取るかが経営者としての腕の見せどころだと思うのです。
もちろん、慎重に構えて考え抜くことが必要な局面もあるのでしょうが、ただじっとこらえているのではなく、次に動く準備を着々と進めたり、すでに次のアクションの為に動き出したりする必要があると思うのです。
今回は、経営資源である「人・物・金・情報」の各視点から、水を流すことによって清流をつくり、さらに川を太くする方法を考えてみたいと思います。
《情報とは》
経営の三要素については、皆さま学校で勉強されたと思います。
それは、「人・物・金」でした。
近年は四要素と呼ばれるようになりました。
加えられたものが「情報」ですが、小生が社会に出た三十数年前には既に四つ目として語られてはいたものの、インターネットの普及でここ数年飛躍的に重要度が増しているようです。
30年前には、仕事でも携帯電話はほとんど使われておらず、ポケットベルで呼び出され、公衆電話で連絡を取っていました。
PCの普及、インターネットの大衆化、携帯電話の浸透、携帯メールの一般化と進み、ツイッターやフェイスブックの登場となって、人と人とのコミュニケーションのあり方が大きく変化してきているのです。
待ち合わせで遅れ、捜し廻っても会えずに苦労した時代から、携帯電話で直接連絡することもできる時代に変わったのです。
メールで、今どこで何をしているかも分かり、ツイッターやフェイスブックで大勢に呼びかけて意見を聞いたり、情報発信ができたりするまで変化しました。
GPS(全地球測位システム=Global Positioning System)機能付の携帯であれば、持っているだけで、その人が今どこに居るのかが判明します。
また、ナビゲーション機能に携帯をつなぐと、迷子になったとしても目的地に導いてくれます。
調べものをする時は、以前は百科事典で調べたり、図書館に足を運んだりしていましたが、現在はインターネットの検索サイトで、瞬時に大量の知識を得ることが可能になりました。(いつでも調べられるので、覚えようという気持ちが少なくなる弊害もあるかも知れませんが…)
モノを購入するにもインターネットで調べ、食事をするにも、美容の様なサービスを受けるにも、事前にPCと向き合う方は確実に増えていると思います。
人と会いに行くお互いの手間を省きたい場合は、ツイッター、フェイスブック、グリー、ミクシィなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサイト)を使って、触れ合いたい人同士がチャット連絡を取ることも可能ですし、一方的に現在の近況報告をつぶやくことも出来ます。
さらに電話も、スカイプを使ったインターネット回線で、二人以上の人達で同時に無料会話ができるようになっており、webカメラを付ければ、テレビ電話が無料でできる時代なのです。
もちろん、ミーティングや本支店間の会議もスカイプででき、離れた場所でのイベントの実行中継さえ、素人でもできてしまう世の中なのです。
インターネットは、米国ユタ州で1961年に起こったテロが発端になって生まれてきたとされています。
三ヶ所の電話中継基地が爆破されたことによって、一般電話回線と同じ有線の仕組みを使っていた、米国国防総省の回線もストップしてしまいます。
危機感を持った国防総省は核戦争時にも耐え得る通信手段の開発に着手します。
これがインターネットの始まりだといいます。
1964年の東京五輪で初めて世界に、衛星同時TV中継が行われる三年前に、さらに新しい仕組みの構築が始まっていたことになります。
通信情報の分野は、日進月歩であり、次々と新しく安価で便利な仕組みが生み出されています。
頭を柔軟にし、アンテナを張り巡らして、情報技術を一早く使いこなしながら、より有用な活用法を自らが生み出す気持ちが今の時代は大切だと思います。
「人・物・金・情報」のうち、情報の占めるウェイトは確実に増し、「金」の部分のウェイトは減ってきていると思います。
今までは資本力に対抗しづらかった経営も、IT(情報技術=インフォメーションテクノロジー)の上手い活用によって、投資を少なくしながら、顧客との親密なつながりをつくって勝負できる可能性が増しています。
「情報」とは、「情け」に「報いる」と書きます。
機械的にスマートに発信することが情報ではないと考えます。
人間臭く、親密に、フレンドリーに、感情に訴えかける発信で、特別なサプライズを与え続けてこそ、インターネットを最大限活用していくことになるのではないかと捉えています。
中小企業のインターネット活用は、大手にできない感情を揺さぶるモノでなければ効果が無いといったら言い過ぎでしょうか
《感動》
情報とともに現代の経営資源として重要度が高いのは、「人」だと小生は思っています。
特に理美容の様なサービス業種で、技術職でもある職種は特にその重要性が高いのは当然です。
人を育てるということは、一朝一夕にはできないことです。
だからこそ繰り返し人を育て続けていくしぶとさが必要であり、満足感が存在せずに、さらに高みを目指すものだと思うのです。
教えながら教える側も成長でき、接客しながら接客する側も、される側も感動できるのがビューティサロンビジネスの一番の魅力と言えるのかもしれません。
IT技術を使って、いかに親密感を創るかという点を前項で述べましたが、対人関係は直接面談するフェイスTOフェイスが最善最良の方法です。
それがあって初めて、IT技術は成り立つものだと考えるべきだと思うのです。
「感動」とは、相手の「感情」を「動かす」ことです。
「喜怒哀楽」と人の感情を表現しますが、「怒り」と「哀しさ」を除いた「喜び」と「楽しさ」を店内でお客様に味わっていただくよう努力すべきだと思います。
お客様の「喜」と「楽」の「感情を動かし」て、感動を生み出していくのです。
人間の意識には常に自分で感じ取れる顕在意識と、普段は意識していないが何かのきっかけで気付く可能性もある潜在意識、そしてさらに深いところには意識することも困難な無意識の層があるそうです。
近年の学術研究によると、以前には10%以上はあると言われていた、顕在意識(本人が認識できるもの)は4%未満とか、学者によっては2%も無いなどといわれるようになってきています。
人は、意識しないでも、感情だけでも動ける動物なのです。
人間は感情の動物という表現は、そんな意味では正しいのです。
感情とは鏡の様なもので、楽しそうな人を見れば見ている自分も楽しくなってきます。
悲しい顔を見れば悲しく、辛そうな顔を見れば辛く、不安そうな顔を見ると不安になります。
しかめ面や泣きっ面を見ると心配になり、怒った顔を見れば攻撃的になったり、反対に防御の姿勢を取ったりします。
すべて、無意識に自分の感情が動き、自分の体をそうさせるためのホルモンがかけ巡ります。
不安や憤りのホルモンや緊張のホルモン(例えば、アドレナリンやノルアドレナリン等)です。
笑顔が大切なのはそんな理由からなのです。
笑顔を見るだけで、喜びや楽しさを感じ、快楽のホルモン・ドーパミンが分泌されるのです。
感情を動かす感動のサービスには、お客様の期待感を超えた、想像以上のサプライズ(驚き)サービスが必要です。
技術でも接客でも、期待を超えた感動を与えたいものです。
来店時にそこまでの感動を与え、来店されない期間には、IT技術を駆使して、親密感を維持強化するといったイメージではないでしょうか。
《労働の価値》
「金」の要素については、サービス業では人に対する投資が大きな割合を占めます。
理美容業では特に固定費の大部分を人件費が占めます。
初期段階の資本主義では、労働の価値は時間が大きな要素だったといわれます。
「Time is money」そのものだったのです。
単純労働では、どれだけ時間を労働に拘束されて、自分の時間を差し出すかにより時間に対し給料が支払われる考え方でした。
重労働であれば、拘束時間に労働力、あるいは人手としての価値が高まり支払われる賃金が上昇するという考え方でした。
ある意味、人の労働を頭数で見て、能力的には差を見出さないという考え方でした。
発展途上、そして戦後の高度成長期までは、日本でもその考え方は底流にありましたが、バブル期や不況期を経て、大きく考え方が変化しました。
仕事の内容、結果によっての評価で賃金が決定する考え方です。
拘束時間や頭数や人手という見方ではなく、個人の仕事振りで評価が決定づけられるのです。
豊臣秀吉は農家から、足軽として信長の家来になり、そこから大出世を遂げたといわれます。
逸話として語られる中に下足番として、自らの判断で、寒い日に信長の『ぞうり』を自分の懐で温めたと語られています。
与えられた役割の中で、独創性をもって目立った活躍をそれぞれの段階で重ねたからこそ、天下人になれたと思うのです。
できる人は周囲の人が「下足番」のままにしておかないのです。
下足番の時に、人のやらない努力や一所懸命さを見せると、上司や周りの人はそのまま放って置かずに次の役職を与えるものだと思うのです。
著名な実績あるスーパースタイリストは、アシスタント時代にも、人のやらない努力をして際立つ、スーパーアシスタントだったのではないかと思うのです。
接客と同様に、人の期待以上の働きをすると賃金も上がっていくという、人物評価基準主体の時代になっていると考えます。
活き活きと明るく積極的に、新しいモノを生み出す結果を出す働き方が大切な時代と思います。
《変化の価値》
最後に「物」についてです。
サロンは、非日常を楽しんでいただく空間です。
自宅リビングでくつろぐより安らげないとか、入店するお客様がワクワクできないようではいけません。
お客様にワクワク感を抱いて入っていただく為や、新しいお客様に期待感を持っていただく為に、入口面(ファザード)だけのプチ改装でリニューアルするのは、お客様に喜んでいただくための良い策だと思います。
逆に既存のお客様に一層充実した時を楽しんでもらう為に、中だけを改装する方法もあります。
狭い間隔で、セット面をたくさん準備していたサロンが、セット面を減らしてお客様間のスペースを拡げて、リラックス志向の空間にリニューアルしたり、明る過ぎた照明を安らげる照度に落としたり、LED照明で省エネを兼ねるといった改装です。
お客様の回転効率で運営するサロンから、長い時間滞店していただき、ヘッドスパなどのリラックスメニューやフェイシャル、ネイル等で総合サロン化する様な動きも見られます。
PCによる顧客サービス強化や、ipadを活用したお客様スタイルの提案なども重要です。
経営上のじっと我慢とは、何もしないのではなく、次に向かっての準備をしっかりしていくことが重要で、変化を拒んでいては経営が成り立たない時代と考えますが、いかがでしょうか。