『一寸の虫にも五分の魂』 ― 中小零細企業の生きる道を考える ―
たとえどんな小さい弱い者にも、それ相当の立派な意地や考えがあります。
だから、どんな相手でも決してなめてかかってはならない、あなどるなということを意味する諺です。
一寸は約3cmで、そんな体長の虫にさえ、体の半分の大きさに該当する1.5cmの魂があるものだという意味から発生しました。
近い諺では、「なめくじにも角がある」、「やせ腕にも骨」などがあります。
痩せて非力な腕にも、堅い骨が通っているの意味から、たとえ微力な者でも、それなりの意地や誇りを持っているので、侮ってはならないことえを言った諺です。
英語では、「Even a worm will turn.」(みみずでさえ、向かってくる)と表現するようです。
百年に一度の不況と言われますが、見方によっては中小零細企業に有利な面もあるようにも見えます。
小さい者こその優位点を活かす方法を、今回は考えてみたいと思います。
《大組織の罠》
原稿を書いている現在は、立候補者受付けさえ始まっていないのに、既に選挙戦の真っ只中という状況のようにすら見えます。
今回の総選挙のテーマに、官僚支配からの脱却を掲げる政党が複数あるようです。
「官僚主義」とか「お役所仕事」といった言葉がありますが、あまり良い意味では使われていないようです。
例えば、「自分の役割分担の仕事しかせず、周囲の部門と連携協力できない」(縦割り行政)、「前例があることのみが出来ることで、新しいことに対して前向きに踏み込んだり、新たに考えて作り出すことが苦手」(前例主義)、「責任は組織全体で取るとしながら、誰も責任を取らなくて済むよう、責任の所在をあいまいにするような組織にしてある」、「手続きや決定に時間がかかり過ぎて時代の変化に追いついていけない」、「仕事の領域を減らすのではなく権限を拡大させて、認可や試験、調査等の名目の外部団体をつくり、権益確保して自分たちの天下り先をつくる」などが、報道で伝えられる官僚主義の悪弊です。
しかし、これって民間の組織にもありませんか?
多かれ少なかれ、近いことがあるかも知れません。
それは人間が今ある状態に安住しやすく、新たなことを始めるためには覚悟が必要で、新たな行動にはストレスがあるため、無意識のうちに、心が防御本能を出してしまうからです。
原始時代から、集団で狩りをしたり、他部族と争っていた人間は、先頭を切って前に出て行く勇者が、怪我をしたり、死んだりする確率が高いことを知っていたから、生存要求として積極的に前に出ることをためらう潜在意識が人間に根付いたと主張する学者もいます。
小学生の頃、皆と同じことをするのが普通で、新しく突出しすぎたことをする子供を変人扱いや異端児扱いしてしまいがちなのは、このような本能が根底にあるからなのかも知れません。
欧米では逆に、このように先頭を切って新しいことをしていく人を賞賛する傾向があります。
以前もこの欄で触れた「最初のペンギン」(The First Penguin.)です。
ペンギンは鳥なので海中は苦手だったが、えさの魚を取る為に海中で高速で泳げるように進化してきました。
しかし、海中には外敵がいっぱい存在します。
集団で岸にペンギンが大勢いるのに、海に飛び込みそうでもなかなか飛び込まないのは、外敵が怖くて誰も飛び込めない状況なのだそうです。
その中で、最初の一羽が勇気をもって海に飛び込む、すると他のペンギンは次々と怒涛のように飛び込んでいけるのです。
組織が大きくなればなる程、「最初のペンギン」が出てきずらくなると言われます。
皆様のサロンには最初のペンギンはいますでしょうか。
《トップダウンとボトムアップ》
最近はあまり耳にしなくなりましたが、「ワンマン社長」という言葉があります。
大部分の決定事項を社長自ら決めていく姿勢をとっている場合をいいます。
ある一定規模まではワンマン社長でも行き着くが、それを超えた規模の会社になるとこのスタイルでは成り立たないという人もいます。
自ら起業し、巨大企業にまで成長させた松下幸之助氏(パナソニック)や、稲盛和夫氏(京セラ)等も、起業当初はワンマン社長と呼ばれる時期もあったのかも知れませんが、現在は彼らを「強力なリーダーシップ」と呼びはしても、「ワンマン社長」と呼ぶ人は非常に少ないと思われます。
方向性や理念を強烈に示して、組織に徹底させながら推進するといったリーダーシップは発揮しても、主要な決定の大部分までを自らしていくワンマン経営では、大きい組織を動かす事ができないものなのです。
もうひとつ、「トップダウン」という言葉もあります。
組織の上部から下部に指示命令を伝え、徹底するやり方です。
対して「ボトムアップ」とは、組織の下部全員で把握した情報を、組織の上層部に向かって上申していき、方向性を決めていくやり方です。
先程のお役所の仕事の話に戻ると、生活者(=納税者)の必要なことをお役所の窓口が掴み、そういったニーズを組織上層部に上げていき、国会や地方議会で法律や政令、条例に反映させていくといった、住民サービスに対応できるボトムアップ機能が必要なのです。
次に、決定した法律や政令に対して、組織を挙げて実現していく責任を果たすために、トップダウンで遂行するといった具合です。
ボトムアップとトップダウンの両方が必要なのです。
しかし、既に皆様お気づきのとおり、この順番はスピードに欠け、一定の時間がかかってしまうやり方です。
お役所の場合は、国会や地方議会の会期もあるので余計に時間を要しますが、大企業も営業所→支店→本社→取締役会→業界団体調整など大組織になるほど、決定に至る時間が余分に必要な面も否めません。
逆に零細企業の優れた一面は、決断スピードが速く、実行に向けての小回りもきくという面だと思うのです。
消費低迷を釣りに例えると、たくさんいたはずの魚がちっとも釣れなくなり、釣り舟の船頭が、小さな舟で少しでも魚がいそうなポイントに、小回りをきかせて次々と移動させるような、スピードと機動力が中小企業にはあると思えるのです。
逆に大きな船では魚群探知機はあるものの、昔の様な大魚群は無いので見つけきれず、船が大きすぎるので、船首の見張り役から上の方にある操舵室の船長まで、すぐに情報が伝わらないというイメージでしょうか。
「トップダウン」には難点もありますが、利点も数多くあります。
それは「ボトムアップ」にも言えることなのです。
要は柔軟に使い分けることが大切です。
「トップダウン組織」=「ワンマン経営」=「悪」と誤解すると次の様な問題が起こります。
「ボトムアップ」を過信しすぎた組織になると、極端にいえば総ての事柄を社員みんなの合議制で決めていこうとする傾向になります。
例えるなら、政治的な決定をすべて国民の多数決で行なうようなものです。
多数決を多用すると、平均的で主義主張が突出しないものが選ばれる確率が高くなるとも言われます。
「社員みんなの意見を大切にしたいから」と、社員全員で企画を練って修正をしていった結果、特徴のない普通のものに仕上がってしまったなどという例も少なくありません。
何より、こういった手法に片寄りすぎると、組織の変化スピードが危機的に鈍化する怖れがあります。
決断と変化のスピードこそ、中小企業の生きる道であり、緩やかにしか動けない大手企業に対抗できる唯一の手段なのに、それを絶つことになってしまいかねません。
《経営責任》
トップダウン組織やボトムアップ組織に片寄り過ぎない、第三の組織タイプもあります。
「プロセス(過程)は全員で共有し、決断はトップ(責任を取る者)が判断する」というものです。
社内の情報はすべてクリアにして、社員に公開する。
そして、現場や若手からの意見やアイデアをどんどん吸い上げる。
その上で、最終判断はトップが下す方法です。
人間とは、結果に対してよりも過程に対して不満を抱く生き物だそうです。
情報を公開せずに独断で突き進むことに対して、他の人は信頼を抱くことができなくなるそうです。
社会保険庁への不信感の問題などはその典型です。
責任を曖昧にしてしまう組織がお役所に対しての不信感につながるのと同様に、決定事項に対しての責任はどこにあるのかを常に意識する必要があります。
たとえ小さな企業の企業主であっても、経営責任は全て企業主が負わなければなりません。
また、従業員とその家族の生活と生存権を守る立場を企業主が持っていることを考えると、大切な方向性とスピードを要する決断事項の判断は企業主がしていく必要があります。
スタッフから信頼されるだけの実績とビジョンを持ち、その情報を公開するのがトップの仕事。
そして、気づいた意見やアイデアを上層部へ常に進言することと、トップの決断を信頼することがスタッフの仕事です。
組織とは、その両方の努力があって初めて強固なものになっていくようです。
不況期は、機敏にお客様の傾向を読んで対応したり、新しい需要を創造していくことが重要で、それを掴んで、実現していくスピードが要求されます。
今こそ中小零細企業にとってチャンスの時代だと思いますがいかがでしょうか。
㈱ワイキューブのメールマガジンより、同社プランニング部 西日本マネージャー・下出裕典氏のコラムを参考にしました。