M-press『裏をみせ表をみせて散るもみじ』 ― お客様との親密感が重要な時代 ―
今回はことわざではなく、著名な禅師・良寛さんの残した俳句からスタートします。
江戸時代末期の天保二年(1831年)に74歳で他界する直前に詠んだ句と言われています。
もともと谷木因(たに・ぼくいん)が詠んだ「裏ちりつ 表を散つ 紅葉なり」という句を良寛が平易に作り直したもので、親交のあった尼僧・貞心に良寛が死の直前に送った手紙に記されていたと聞きます。
意味としては、「人間はいいも悪いもすべて見せて、安心して元のところに帰っていくよ」ということだと解釈されています。
自分を、ひらひらと裏も表も見せて散っていく紅葉に例えている一句なのです。
死期を迎える自分自身のことをもみじに例えた話でもあり、四十歳年下の尼僧の貞心にも自分の裏も表も何一つ隠さず見せてきたことをいっているとのこと。
親しいというのは、こんなふうに裏を表も見せることができるということなのかと思います。
裏も表も、長所も短所もひっくるめての人間であって、裏を隠す必要なんかないよ、という究極の人間受容をしているともとれます。
ところで、長所と短所は裏表で隣り合わせともいわれます。
欠点だと自分で思い込んでいることが、他の人から見れば優れた才能に見えるということは良くあります。
たとえば、あきらめが悪いとかしつこい、執念深い、思い込みが激しいといった性格がある人であれば、粘り強い、しぶとい、辛抱強い、ブレない芯を持っているというような長所を持っていると言い換えることもできます。
このように、見方を変えて概念を組み替えることをリフレーミングといいます。
フレーム=枠組み・・・を取り替えて見てしまうという考え方です。
人を育てていくということは、欠点を減少させて平均化させるのではなくて、その欠点の裏側に存在する美点を見いだして、個性を伸ばしていくという考え方に他ならないと思うのです。
社会の枠組みが大きく変わっていくスピードがどんどんと加速して、数年前の世間の常識が常識でないとまで逆転してしまう世の中にあって、自社&自店舗も個性を発揮しながら世の中を見つつ個性を発揮して、独自性を出していって発展する、そんな世の中になってきていると思います。
また人についても、一昔前ははみ出し者と呼ばれたような強烈な個性のある人が独自性の代表格
になってきていると思うのです。
さらにいえば、お客様をひとくくりの集団としての特徴で見ていくのではなく、おひとりお一人の個性を見出して、それを尊重して輝かせて差し上げられるといった、お客様を良く観察して個別対応できる応対力が欠かせないと思っているのです。
つまり、一昔前まで鉄則とされ長い間信じられてきたマスマーケティング理論が通用しない時代になってきていると思うのです。
マニュアル的対応、金太郎飴的な無個性な統一意識、自社組織優先主義が限界を迎えつつあるような気がしてならないのです。
今回は、お客様おひとりおひとりの個性を見て、それぞれに合った対応をしながら、親密感でつながっていく重要性を考えていきたいと思います。
《金科玉条(きんかぎょくじょう)》
金や宝玉のように尊い大事な法律、規則、ぜひとも守るべき大切な法律、きまり、よりどころなどを表す四字熟語です。
絶対的に守らなければならない、かけがえのない重要な法律や約束事のことです。
『科』『条』ともに法律の意味で、『金』『玉』は、立派なことを意味する修飾語として使われている、中国古典・揚雄を起源としたことわざだそうです。
金科玉条は英語では、『The golden rule』=黄金律…と表現されるようです。
さて、この金科玉条とか黄金律のように、かつては絶対的に固く信じられていたことが、通用しなくなるほどの価値観の変化が社会に起こっているのではないかと思うのです。
しかも、それは加速度的にスピードアップして、インターネットによって人から人へと駆け巡って新しい標準となり、その標準もまたすぐに塗り替えられて次の標準が登場するといった時代になってきていると思います。
たとえば、25年前には、東西の冷戦時代の象徴・ベルリンの壁が崩壊するなどと、思っている人はほとんどいなかったはずですし、日本の貿易相手国は米国が断トツの一位であって、中国が一番の貿易相手国になるなどと考えた人もほとんどいなかったと思います。
その当時まで30数年間続いていた自民党の長期安定政権の体制が、政権交代を繰返す時代に変わるということすら考えにくいと思われていました。
また、25年前には日本では初めてのハンディ型携帯電話や自動車電話が登場したばかりで、1000人に一人未満の普及率で、まさか一人に一台を上回る携帯電話普及率になるなどと考えられる人はいなかったのではないかと思います。
当然のことながら、当時の映画やTVドラマには携帯電話は登場しておらず、ドラマ『太陽にほえろ』の刑事達は、公衆電話ボックスに飛び込んで七曲署に連絡を入れていました。
ウルトラマンの科学特捜隊のメンバーが小さな無線機を使うのを見て、夢の世界とワクワクしていた時代だったのです。
SFアニメの鉄腕アトムで、未来の人が携帯電話やテレビ電話で会話するような世界が、大衆にこんなにも早く浸透するとは思ってもおりませんでした。
常識って簡単にくつがえるもので、新たな常識が生まれてくるものだと思うのです。
《金烏玉兎(きんうぎょくと)》
金のからすと書いて金烏(きんう)と読みますが、太陽(日)のことを指すそうです。
太陽には、三本足のカラスがいるという中国の伝説から、太陽のシンボルとなったそうです。
日本サッカー協会(JFA)のシンボルマークとして日本代表ユニフォームや審判員に付けられたワッペンにも使用されているカラスも三本足です。
これは、東京高等師範学校(後の東京教育大学=現在の筑波大学)の漢文学者であり、日本サッカー協会の創設に尽力した内野台嶺(うちのたいれい)らの提案で、日本に初めて近代サッカーを紹介した中村覚之助(内野台嶺の東京高等師範学校の先輩)に敬意を表し、出身地である和歌山県那智勝浦町にある熊野那智大社の八咫烏(やたがらす)をデザインしたものであり、1931年(昭和6年)に採用されたとのことです。
日本神話に登場する八咫烏は、単なるカラスではなく太陽の化身との位置づけで、中国の伝説が古代に日本に伝わり、熊野の八咫烏と結びついたようです。
日の本の国・日本のサッカー協会の象徴にふさわしいシンボルマークが三本足のカラスです。
玉兎(ぎょくと)とは、月にウサギがいるという伝説から、月のことをいったものです。
『金烏玉兎』とは、太陽と月の意味が転じて、歳月のことや、月日が流れるのは早いということをいった四字熟語で、『烏兎怱々(うとそうそう)』や、『烏飛兎走(うひとそう)』、『兎走烏飛(とそううひ)』とも使われるようです。
月日、歳月の変化は大きな文化的変革をもたらします。
例えば映像の領域などはこの25年間で激変しました。
写真では、カメラにフィルム装填して撮影、現像、焼付けをしてプリント画像をアルバム保管して加工、ネガフィルムも保管をしていたものが、デジタルカメラで撮影しデータをPCやDVDに保管し、PCやデジタルフォトフレームで見ることができる上、家庭で簡単にプリントアウト可能になりました。
結果として、スチールカメラ(フィルムのカメラ)は姿を消し、街のカメラ屋さんは激減し、現像所も斜陽産業となってしまいました。
カメラ店の中には、ヨドバシカメラやビックカメラのように、家電量販大型店に変化したり、カメラのキタムラのように専門性の高い多店舗化をしたり、そして稀有な例としてはジャパネットタカタのような総合通販に転じて生き残りをかけるところも出てきました。
カメラメーカーでは、キャノンのように早い時期に事務機器に主軸を移しながら生き残りを図ったり、コニカミノルタのようにカメラ部門をデジタルに強い家電メーカー・ソニーに譲渡したり、オリンパス光学のように映像技術を医療機器に特化していく決断をするなどの方向転換をしてきました。
富士フィルムは化粧品アスタリフトなど化学製品や原料供給、DVD、SDなどの記録媒体製造に生き残りをかけて、主軸売上げだった写真フィルムの売上げ消滅に対応してきました。
フィルムでは、世界最大手のコダックは倒産してしまいました。
写真現像所では、貸衣装と着付け、ヘアセットもするスタジオを全国展開し、七五三や成人式などの記念日の彩りを飾り、写真に残すビジネスを生みました。
動画の分野では、家庭用8ミリフィルムによる撮影&映写機再生からスタートし、ベータマックス、VHSというカセットビデオに直接撮りカセットデッキで再生していた時代から、DVDデジタルビデオカメラ、ハードディスクビデオへと軽量小型化、デジタル化が進みました。
再生もテレビだけでなくPCでも可能となりました。
DVDもブルーレイに移行です。
スマートフォンの充電寿命が改善されると、スマートフォンの動画撮影で満足となり、デジタルビデオカメラの販売台数もさらに激減する恐れもあるとささやかれています。
音声記録媒体の分野では、レコードがCDになり、ついにはインターネット配信でダウンロードして、デジタル音声でどこに居ても聞ける時代になりました。
オープンリールテープから、カセットテープ、CD、MD、SDカード、ミニSD、マイクロSDと録音メディアも小型化が進んでいます。
結果として、映像や音楽の分野では、CDショップの売上げが、インターネットの音楽配信に押されて減少し、映像ソフトと音楽ソフトのレンタル業でも、最大手のTSUTAYAを筆頭に軒並み前年売上げを大幅にダウンさせています。
ビデオ・オン・デマインドという動画配信を好きな時に受けて見られる時代に入っており、DVDやビデオを借りに出かける必要がなくなってしまう時代までもう少しの状況なのです。
書籍についても、デジタルブック化の準備が着々と進んでおり、ⅰ・Padのようなタブレット端末でほとんどの本が読める時代もそう遠くないようで、町の本屋さんの行く末が心配です。
《金蘭(きんらん)の契り》
もっと身近な日用品に目を向けてみると、接着に使うのりが現在、大変革が進化中のようです。
古来の日本ではニカワやうるし等が糊として使われていました。
江戸時代中期頃からは、米や小麦等のでん粉質を煮込みゲル状にした『姫糊』が普及し、明治中期頃まで主流だったそうです。
当時の「姫糊」は腐りやすく買い置きができない為、使う時に容器(茶碗など)を持って行き使う分だけを買ったといいます。
そこで、腐らない固体糊(半固体糊ともいう)の開発を行ったのが東京の木内弥吉氏(現ヤマト(株))のヤマト糊と大阪の足立市兵衛氏(現不易糊工業㈱)の不易(フエキ)糊でした。
大正12年の関東大震災後はアラビアゴムを原料とする液体糊が主流となり、昭和20年の太平洋戦争終戦後に、徐々に合成樹脂を主原料とする液体糊に代わったといいます。
1970年代に入ると、トンボ鉛筆のピットや、コクヨのプリットといった固形のスティック糊(口紅型)が登場し、手を汚さずはみ出すことも少ないという特徴でシェアを伸ばしました。
そして、最近になって革命的にシェアを獲得しつつあるのが、テープ型の糊です。
狙ったところに細密に付けられ、粘着力は固形糊以上で実に使い勝手が良いのです。
仕事の職種でも、例えば帳簿の電子化が進むことによって、経理事務といった職種がほとんどなくなっていき、新たな分野の職種が生まれていく時代です。
ひょっとしたら、WEB配信によって新聞やTVニュースも必要がなくなる時代が来るのかもしれません。
このように、どんな領域でも劇的変化が起きており、それがインターネットを通じて、とんでもない速度で広がっていきます。
皆様のお店はそのような変貌に対応する心構えは、できていらっしゃいますでしょうか。
技術や薬剤、機器などを使って新しいものを取り入れることは簡単にできると思います。
既にお客様のデータもカルテも、紙ベースからPCに記録されていつでも取り出せて使えるようになっていると思います。
そこまでは当たり前のこととして、人対人でどこまで心を通い合わせお互いが親密感を深めた関係まで高められるのかがこれからの課題であると思うのです。
道具が発展して便利になり、時間の有効活用ができる時、親密感を求めて時間活用していくのが人間のようです。
フェイスブックやツイッターの拡大は、親密感やつながりがキーワードだといわれています。
『金襴の契り』とは、堅く結ばれた、美しい友情を意味します。
金よりも堅く、蘭の花よりもかぐわしい程に、信頼し合っている親友同士の交際を表現していることわざです。
お客様の美点を見出し、個別に喜んでいただける対応をとるためには、サービス提供者側自らが自分の美点を見て理解していかないと、お客様の美点も見えなくなるのです。
まずは自ら自己と自店をさらけ出して懐に飛び込まなければ、お客様と親密な関係にはなれないと心しておきたいと思います。
お店や店主の考えをお客様に伝えることが第一歩だと考えます
ビューティ-クリエータ-のための情報誌 No.202 マックス企画室