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『君子は(くんし)は豹変(ひょうへん)す』 ― 店舗運営の見直しのポイント ―

2009年02月20日

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昨年の金融不安に端を発した、百年に一度ともいわれる世界同時不況により、日本でも景気後退局面に入っているようです。
消費の傾向も大きく変化しているともいわれます。
サロンオーナーの皆様からも、「このままの営業形態を続けていて大丈夫なのか不安」、「何か手を打たなければ」と、ご相談を受けることが多くなっています。
しかし、「打つ手がわからない」、「何から手を付ければ良いのかが見えない」などの話も多いのが実情です。
そこで、今回は店舗営業の基本的な部分の確認をして、何をしなければならないかを判断し、改善のヒントになればと考えました。
ご来店頂く消費者に対して、過去に技術を磨き上げただけで経営が成り立っていたサロンが多かったとすれば、他業種に比べ非常に恵まれた業界環境だったと思う必要があるのかも知れません。
改善、強化すべきポイントが見つかったら、即実行していくべきだと思います。
タイトルの諺は、「徳の高い立派な人物は、自分の過ちに気付けば即座に改めて、良い行いに転じることが、極めて素早くはっきりしている」という意味です。
豹変は、ヒョウの際立った斑点にように、鮮やかにはっきりと変わることです。
英語では、「A wise man changes his mind,a fool never.」(賢者は考えを変えるが、愚者は決して変えない)と表現するようです。
元々は良いほうに変わることを指した諺ですが、近年では突然態度などがガラッと変わることや、悪い方向に換わる場合にも使われるようになってきました。
後者の意味にchange!(オバマ流ですが)しないように気をつけたいものです。

《二種類の消費》

自給自足で生きていけない以上、どんなに景気が悪化したとしても、消費がなくなることはありません。
消費者の財布のひもは固くなるかも知れませんが、完全に財布が閉じたまま開かないわけではありません。
すべての消費者は必ずどこかで何かにお金を使っていきます。
消費は、明快に以下の二種類に分類できます。
それは、「生活必需の消費」と「心を豊かにするための消費」の二つです。
生活必需の消費は、ガス・水道・電気などのどうしても買わざるを得ないものの消費です。
収入が上がらなかったり下がったりするならば、生活必需の消費は必要最低限に留めようとする人が多くなるといわれます。
例えば電話であれば、契約電話会社の乗り換えやIPフォンへの切り換えをする人が増えるかも知れません。
車を通勤手段として日用品だと考える人は、燃費のいい軽自動車にしたり、一円でも安いガソリンスタンドへ走ることも考えられます。
そうやって「必需消費」は、より安いものに走る消費者により、使用額が絞られる可能性が高くなります。
もう一方の「心を豊かにする消費」も完全にやめることのできない消費です。
例えば車マニアの人が、心が豊かになる為に、趣味で車を楽しんでいたとすると、生活必需で車を利用する人のように軽自動車に乗り換えることはないと思います。
ただし、可処分所得(個人が自由に処分できる所得で個人所得から所得税と社会保険の個人負担を差し引いた残りの額)が少なくなってくると、当然心を豊かにする消費総額も絞られる傾向になってきます。
だからこそ、サロンオーナーも考える必要があります。
消費者が絞ってきても残る消費として、選ばれる店舗になることを。
競合の理美容室と比べれば良いだけではありません。
心を豊かにする消費では、旅行、洋服やアクセサリーの購入、食事等、様々な選択肢との比較になります。
例えば6000円のパーマをお勧めした場合、その瞬間に、お客様は「6000円あったらあそこのレストランで食事ができる」、「全身のリラックスマッサージとどちらが良いか」、「洋服買うのとどちらが良いか」と、口に出さずとも考えている可能性があります。
つまり、競合サロンと比較するのではなく、心を豊かにする為の消費をどこに対してするのかを、お客様は比較検討しているのです。
ですから、パーマ技術自体をお勧めするのではなく、「春の軽やかな気分を出すウェーブとショートヘアでチェックのスカートと組み合わせて、愛犬とお散歩に出かけましょう」とか「パーティーの主役になれるようゴージャスなヘアスタイルで演出しましょう」など、心のウキウキ感、ワクワク感を訴えかけると有効です。
髪は放っておいたら伸びていくものです。
ですから当然切らなければなりません。
切らなければならないという行為は「必需消費」になり、前述の通り必要最低限価格に抑えたいとの消費者心理が働きやすくなります。
一方、ヘアカット、カラー、パーマをファッションとして考える消費者にとっては、「心を豊かにする消費」となり、心が豊かになる度合いと価値観により、逆にお支払いいただける額は無限大に高めていくこともできます。

《客単価》

東京郊外のそばと酒と肴の店のお話です。
この店では「本鴨の鉄板焼き」というメニューがありましたが、全然売れませんでした。
一日にひとつ注文があるかないかで、そのメニューの価格は1200円。
ランチタイムにもお客様は来るが、皆そばしか食べず、客単価は約450円だったそうです。
飲食業界の仲間に相談しても、「やっぱり不景気だから客単価は低くなる」、「小さな酒の肴の店で単品1200円はきついんじゃないの」、「ランチタイムには売れない金額だよ」など否定的反応ばかり。
味に自信があった店主は意地になり、メニューに次のように書き加えたそうです。
・・・ 人気テレビ番組の特選素材にも選ばれた青森産本鴨を使っています。『気付かなかった、これが本当の鴨のうまさなのか』という味です。鉄板に鴨を乗せて焼きます。遠赤効果でうまみは2倍に! ・・・
この後、何が起こったか?いきなりその日からこれが大ブレイクし、オーダー数が10倍になったとの事。
日が経つごとにオーダー数は増え、驚くべきことには、ランチタイムのお客様のおよそ8割がこの料理を注文するまでになったそうです。
店主によると、ランチタイムの客単価はこれにより約4倍になったとの話。
さて、皆様のサロンではメニュー表にありながら眠ってしまっている技術メニューはないでしょうか。
そのメニュー名がお客様にイメージが伝わらないものであったり、製品名をただメニュー名称にしていたり、業界の専門用語そのままの、大衆に解らないもので表現されていないでしょうか。
お店として自信を持っているメニューであれば、イメージが伝わる名称に改めたり、お声がけを髪に対してのみするのではなくライフスタイル提案に変えたり、この店のようにメニューに数行キャッチコピーを書き加えたりすることで、客単価が倍になる可能性もあると思います。

《付加価値》

文字通り「付け加えられたプラス価値」です。
よく使われる単語となり、深く意識もされず簡単に使われていますが、その意味を考えてみましょう。
まず前提として、価値を感じてもらう必要があります。
価値を感じてもらうことが無ければ、付加価値は存在するはずがありません。
その感じた価値が自分の予想を超えたり、予測不能な全く異種の喜びにつながる様な感動を起こすもの、これが付加価値の定義です。
独創的、個性的デザインの時計でも、「かわいらしいオシャレな時計」と表現したら、他の店で販売している「かわいらしいオシャレな時計」と同じ扱いの「平凡な商品」のレッテルを貼られてしまいます。
「光る女性に大人気のビーズデコウォッチ」とか、「ホワイトデープレゼントに最適な春っぽさ演出の限定品」など、オリジナル感を出した提案表現により、期待した以上の驚きを感じていただくことができれば、付加価値となり結果的に売上げに貢献していきます。
テレビショッピングのジャパネットタカタ・高田社長や、トーカ堂・北社長が人気なのは、この様な付加価値の提案をできるからです。
メーカーが説明するセールスポイントや、家電量販店が説明する機種性能やスペックの違いでは無く、ライフスタイルに落とし込んで、こんな時にこんな使い方をすると幸せになれますといった予想外(超えた)視聴者の琴線に触れるような感動によって、わざわざ電話注文をする行動に駆り立てられるのかと思います。
「子供達だけでなくお父さんも録画しましょう」、「お子様が大きくなられた時に、若き日の父の姿もみてもらいましょう」、「自分の姿も撮りやすいデジタルビデオカメラです」という高田社長の提案で売上げが増大していきます。
ダイソンの掃除機、ケルヒャーの加圧洗浄器、マイク型カラオケ器、持ち運び可能ナビゲーション・ゴリラなど多数のヒットがこのルートを発端にして出ました。
付加価値とは、ひとつの価値に加えて、「これもあります、あれもあります」と、たくさんの価値を追加で上乗せする事ではありません。
たったひとつでも、相手の心に響く、感動を与え、予想を上回る、たったひとつの喜びや驚きと気付きを与えることが付加価値を与えることなのです。

《シズル》

「Don,t sell  the steak,sell the sizzle!」
1930年代から50年代に米国で経営アドバイザーとして活躍したエルマー・ホイラーの言葉です。
和訳すると、「ステーキを売るな!シズルを売れ!」となり、商品が売れるメカニズムを説いたものです。
「シズル」とはステーキを焼くときの「ジュージュー」という音のことを英語で表現したものです。
犬の鳴き声は日本ではワンワンですが英語ではバウワウと表現され、ニワトリはコケコッコーではなく、クックドゥードゥルドゥーが英訳です。
シズルも同様の英語の擬声語です。
肉屋がステーキ用の肉のカタマリを単にショウケースに入れて展示しておくだけでは売れる量は限られます。
お客様がこの肉を見た時に、ステーキを焼いている際のおいしそうな肉汁、匂い、ジュージューという音などを連想してくれたら、売上げは大きく伸びるのです。
また食べた後の幸せ感や、家族間で弾む楽しい会話までイメージできたなら、更に売上げは伸びてきます。
つまり「商品や技術についての付加価値や、それから生じるイメージを受け手側のお客様が感じ取れて、心の豊かさや幸せ感まで想像できる話をしなさい」という事を伝える言葉なのです。
経験の少ない営業マンにありがちなのが、一語一句漏らさず事細かに特徴や成分、使い方などを説明しても商品が売れないことです。
これでもかと説明をしても、それは単なる製品説明で、お客様の購買動機となる心の琴線に触れなければ、結果は出ないものです。
梅干ならば「匂い」、保険なら「安心」、ベンツやダイヤモンドならば「余裕」、バレンタインデーの本命チョコなら「愛情」など、どんなものにもシズルが有ります。
お客様個人は生きていく上で色々な「大事にしている事」を持っています。
「髪型を良くすること」や「髪を綺麗にすること」だけが大切と思っている人はほとんどいないと思います。
サロンビジネス関係者は髪のことを毎日、沢山の時間考えていますが、お客様にはそうではなく、髪は生活の中のほんの一部なのです。
ですから、商品の説明や使い方の説明を一生懸命しただけでは、受け入れる可能性は少なくなります。
サロンでシズルを売るとは、メニューや店販品を売るのではなく、心の豊かさや満足感、変身した髪によって得られる幸せ感や達成感のイメージを売ることで、それが売上につながります。

《形成治心》

しつこいようですが、期待に応えるレベルではなく「お客様の期待を超える」ことが必要で、それができることによって再来店、再々来店が約束されます。
更に、お客様が幸福感を感じ、それにより人生が変わったとまで感じれば、そのサロンの生涯顧客になることまで約束されるのです。
そのための前提条件として次の①~②の仕事の品質を、スタッフ全員が③まで高める必要があると思います。

① 当たり前品質・・・
お客様との約束は守って当たり前、髪は綺麗にしてあげて当たり前、できて当たり前、できなければお客様は大きな不満足を覚えます。

② 一元的品質・・・
お客様は自分の要望することを満たしてくれれば満足し、満たしてくれなければ不満足を感じます。

③ 魅力的品質・・・
お客様の期待を超えた、驚きや感動を与える仕事であり、これを皆で目指します。

当然③はお客様は大満足ですが、仮に②のレベルの仕事までできていればお客様は何ら不満足を感じないため、③のレベルまでやらなくても問題は起こりません。
従って、スタッフは③の仕事のレベルを気付きにくく、お客様に大満足を与える機会を逸しやすいものです。
長崎大学医学部の故・難波雄哉名誉教授が「形成治心」という言葉を使いました。
教授は日本にはまだ形成外科という言葉が存在しなかった昭和20年代後半に、被爆による火傷跡で悩む女性の治療に努力しました。
そして渡米して勉強した後の、昭和35年に日本で初めての形成外科治療をスタートしました。
日本全国から火傷跡や先天的異状から人前に出られず悩み、消極的人生を歩まざるを得なかった人々が救いを求めて来院したそうです。
治療が終わった人々が明るく積極的な生き方が出来るようになり、楽しく生き生きと変わっていく姿を見て、まさに人生が変わるお手伝いを形を変える事によりできたと氏は実感しました。
難波氏はこれを「形成治心」と呼びました。
理美容師の皆様も、お客様の人生を変えることができるのではないでしょうか。
容姿を美しくして差し上げることにより、より明るく積極的な生き方ができるようになり、お客様から感謝された技術者も多いことと思います。
医師と違い、痛い思いをさせずに笑顔の中でお客様の人生を良くする事のできる「天使の仕事」と思います。
時代が混沌として先行き不透明な時こそ、小手先の施策に走るより、お客様に生涯愛され選ばれる店づくりの王道を目指し、改革改善を進めるチャンスと考えますがいかがでしょうか。

営業ラボ代表・林丈司著「営業術」(明日香出版社刊)、オラクルひと・しくみ研究所・小阪裕司著「招客招福の法則」(日本経済新聞社刊)を参考にしました。