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『手前味噌』 ― 素晴らしい接客への原動力を考える ―

2010年08月20日

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自分の作った味噌を、「これはうまい!」と自分で褒めることから生まれた諺です。
自分のやったことを、得意気に自慢する場合に使われます。
「自画自賛」という諺も同じ意味で使われます。
「賛」は絵画に書き入れる褒めたたえる文章のことで、自分の描いた絵に自分で賛を掻くという意味から出たものです。
英語でも、「Every cook commends his own sauce.」(=どの料理人も自分の作ったソースを自慢する)、「to applaud oneself.」(=自分自身に拍手を送る)、「blow one,s own trumpet.(=自らのラッパを吹く)など、同種の諺が沢山あるようです。
和洋問わず、古今問わず、人の自慢話を聞く事は、聞く側にとっては苦痛な一面がある様です。
今回は、自分の作った「味噌」を沢山の人々から、「おいしい」と喜んでいただくことで、もっと素晴らしい「味噌」が出来るというお話をしたいと思います。
「味噌」の文字を「ヘアスタイル」や、「接客技術」に変えて読んでいただいても結構です。
その場合は「おいしい」が「嬉しい」に変わります。
「手前味噌」でも「自画自賛」でも、自分が得意気に自慢することは良くない事との諺ですが、他人様にひけらかし過ぎなければ、自分の自信と成長につながる良い面もあると思います。
大いに自分で自分を褒め上げて、自信を持ち、もっと人に喜んでもらいましょうというのが今回のご提案です。

《甲子園》

前回のW杯ネタに続き、今回もスポーツネタになることをお許し下さい。
この原稿を書いている今は大会期間中ですが、皆様のお手元に届く頃には高校野球の優勝チームが決まっていることでしょう。
小生も夏休み期間中に甲子園に足を運びましたが、酷暑の中で元気にプレーする球児や、応援の若者達、ビールタンクを背負って動き回るビアガール達からも元気と勇気を貰いました。
さて、同じチームを何試合か見ていると気付くことがあります。
それは、一戦ごとに力を付けているなと感じる選手が、勝ち進むチームには必ず居ること。
そして、チームの総合力が一戦ごとにアップしていると明らかに感じるチームがある事です。
正確には、個人として甲子園で実績を蓄積することで、自信に満ちたプレーをするようになり、それを周囲が頼もしく感じて、向上したなと判断しているのかも知れません。
ラッキーボーイと呼ばれる選手も出てきてますが、良い所で良いプレーをすることで、運を持ち、その運をまた活かすことによって、自信を持ち、その運をチームメイトや監督が活かそうとすることにより、周囲の協力もあってラッキーボーイが誕生するのではないかとも思います。
一人でするスポーツではラッキーボーイは存在しないものです。
集団でするからこそラッキーボーイが出て来るのです。
チームワークが良くなったチームは、チームメンバーが他の人を活かすように、全体の中の自分を意識しており、人を活かすことが自分の役割と認識できた場面になると、自分が犠牲となってまでも人を活かす様に動き出すものです。
他の人がミスして困った局面になっても、誰かが穴埋めしたりフォローしたりして、リカバーできるものなのです。
チームワーク溢れるチームとは、これができるようになったチームだと思うのです。

《P・F・ドラッカー》

当コラムで何度も登場した経営学の父と呼ばれる人です。
最近、岩崎夏海(なつみ)氏の著書で、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(ダイヤモンド社刊)という本がヒットしました。
岩崎氏は、以前は放送作家として、「とんねるずのみなさんのおかげです」「ダウンタウンのごっつええ感じ」などの番組制作を手掛け、最近ではアイドルグループ「AKB48」のプロデュースにも携わっているそうです。
彼は、数人のグループも企業も組織だが、うまく機能しないことが多いので、それを円滑に運営するにはどうしたらいいのかという疑問から、ドラッカーを学び始めたとのこと。
集団の中で、みんな勝手なことを言っていたり、動かなかったりして、それぞれが何をしたらいいのか分からないで、結局波風立てない仲良し主義に縛られ、目的も見えなくなってしまいがちになっていると考えました。
仲良し万能主義では、本当の幸せはやってこないのではないかと迷い、その答えが、ドラッカーの著書「マネジメント」の中にあったと彼は語っています。
「人間は自分の力を活かすことが幸せであり、その延長で社会に役立つことがやはり幸せで、そういった願いを叶えられる組織の一員になりたいのだと思う」と岩崎氏は語ります。
その場の居心地の良さを重視して、馴れ合いで気を使い合っている組織になると、その集団のそもそもの目的まで見えなくなってしまいかねません。
高校球児達は、勝つという目的に全員が集中し、高校時代を野球に賭けてきた集大成を、甲子園で出し切るという覚悟があるので、組織として機能しているのではないでしょうか。
皆さんのサロンでは、この様な共通目的を持つスタッフ集団ができていますでしょうか。

《味噌も糞も》

汚い表現の諺でごめんなさい。
「味噌も糞も一緒」、略して「糞味噌」という表現があります。
良いものも悪いものも、性質の違うものも、歴然とした違いがあるにもかかわらず、見た目が似ているからといって、価値の区別をしないで、同一に扱う事を指した諺です。
人にはそれぞれの強み、弱みなどの特徴があります。
その人のもつ固有の持ち味を最大限に引き出し、発揮させて活かしてあげたいものです。
そうすることによって、活かしてもらった人は幸福感を感じ、その組織も活性化するのではないでしょうか。
才能や性能を表現するパフォーマンスの語源は、「per」(=完全に)と、「founir」(=やり遂げる、完成する、備える)というラテン語の組み合わせだそうです。
人にはそれぞれの固有の持ち味が既に完成型として備わっており、それを個性と呼ぶのです。
それを引き出したり、高めたりできる組織が素晴らしい組織なのだと思います。
組織内の全ての人を没個性的に、「味噌も糞も」一様に論じるのではなく、パフォーマンスを最大限に引き出して活性化したいものだと考えます。
スティーブン・R・コヴィーという博士が活躍しています。
米国生まれで、元々は作家でもあり、経営コンサルタントでもありましたが、博士号を取って経営管理と組織行動学の教授を務める傍ら、フランクリン・コヴィー社の共同創設者として事業でも成功しています。
コヴィー氏の著作「7つの習慣・成功には原則があった」は、全世界で1,500万部以上(36ヶ国語に翻訳)の売り上げで、「20世紀にもっとも影響を与えたビジネス書」のひとつとも言われています。
「七つの習慣」は次の機会に取り上げることにしますが、博士の話では、労働の価値そのものが変化してきたと唱えています。
それは、以前は、「工業産業の時代」だったのが、現在は「知識労働者の時代」に変化してきたとの話です。
工業産業時代は、ものを作ることによって価値を産み出していたそうです。
均一の品質のモノを早く、大量につくることに主眼がおかれて、その為に単純化・標準化・分業化することが重要視されました。
オートメーションの考え方がこれで、T型フォードがその原点だったといいます。
労働者は、「決められたことを」「決められたとおりに」「決められた時間で」行なう事を求められました。
人は管理される対象物で、経営とは「人を管理し動機付けることに対し、管理者が責任を負うこと」を意味していたそうです。
その為、組織は、人を画一化しようとして、「思考形式の管理」を強化していったそうです。
つまり、どこから切っても同じ顔が出る「金太郎飴」の様な人達をつくったり、「味噌も糞も一緒」の様にする為の管理方法が取られていたとのことなのです。
この考え方は、日本でも高度成長期ばかりでなく、バブル期頃まで続いていたともいわれます。

《セルフマネジメント》

現在の知識労働者時代は、人の好ましい感情(感動・喜び・誇りなど)を生みだすことで、価値を生みだしているといわれます。
現代は、多様化した社会なので、人の求めること、感じ方、捉え方が人それぞれ異なります。
ですから、マニュアルだけでは対応できず、人対人のそれぞれの組合せによっての個別対応が必要となっています。
したがって、現場で一人ひとりが、感じて、考えて、自主的に動くことが求められています。
こういった時代の経営方法は、「セルフマネジメント」(=自らを律し、自ら考えて行動することができる人づくり)が重要だといわれています。
組織は、一人ひとりが自ら考えて行動できる為に、「思考形式の開放」が必要な時代とされます。
特に、サロンビジネスの様なサービス産業では、この様なセルフマネジメントができる人を育てていく事が大切だと思います。
P・F・ドラッカーは、2005年に亡くなる前に、「現在ほど、選択の自由を人々がもった事はない、しかし人々は自分自身をマネジメントできないでいる」との言葉を残しています。
甲子園での優れた高校野球チームは、監督からの指示だけで動いているのではなく、グラウンド上で自ら判断し考えて行動を起こせる、セルフマネジメント能力の高い選手を多く持つチームなのかもしれません。

《味噌を付ける》

しくじって面目を失うことや、失敗をして恥をかくことに使われる諺が「味噌を付ける」です。
お客様が好ましい感情を持つ様にする事が労働価値だとすると、人それぞれに思いが違うだけに、お客様の感情を害する失敗も出てくる可能性があります。
ここで、チーム全体で対処して好ましい方向に持っていったり、代りの誰かが対応フォローして、新しい感動をお客様に感じてもらうことが必要です。
犠牲バントを失敗しても、盗塁してカバーしたり、エラーしてもバックアップしてそれ以上の失点を防ぎ、次のチャンスにつなげることができるのが、良いチームです。
味噌をつけたままにせず、自ら拭けないのであれば、誰かが拭き取ってあげれば良いのです。
味噌を付けたままにしておくと、味噌はいつの間にか、乾いて腐り「やけくそ」となります。
「焼け糞」と書くのではなく、「自棄糞」と書くのだそうです。
自分を棄ててしまう事です。
さて、人間の脳には限界があり、不必要なものは忘れていくように構造的にできているそうです。
セルフマネジメント能力を持ち、自分で判断して考え、行動できる人は自分の脳を「工場」として使い、入れた情報を活用しているという見方もできます。
それに対し、自分の脳を「倉庫」としてしか活用できずに、新しい情報や知識を仕入れることに執着し過ぎている人もいます。
その場合は、脳はデータの出し入れと保管のみの働きとなってしまいます。
物忘れの機能を持つ脳に、情報の組入れや保管は大変な労力を必要とするので、それよりもっと大切な考える力を奪ってしまうのではないかとの説もあります。
脳の持つ能力を最大限に発揮させるには、時には忘れたり、捨てたりすることも大切なことであるとの見方もあります。
脳の「工場」としての役割を引き出す為には、成果を生み出す目的で必要な素材と情報のみをきちんと厳選して入手し、それらの「加工」に能力の大部分を使う必要があるとも言えます。
大胆に言い切ってしまうと、マニュアルや習慣付けで画一的に覚え込ませる社員教育だけでは、一人ひとりが自分で最良の対応を選択していく必要がある現代では、通用しなくなっているのかも知れません。
つまり、脳を「倉庫」から「工場」へ、時代に合わせて転換させる必要があります。
現在、好業績を継続する企業は、ほぼ例外なく、画一的にならない「ゆるいマネジメント」をしているとのことです。
それは、社員一人ひとりの自主性・主体性を尊重し、それを引出すように経営陣が動き、個人の能力をチームの力の結集へと展開していきます。
そのチームの力が、圧倒的な顧客満足を生み出し、それが好業績へと繋がっているようです。
これが、コヴィー博士のいう「知識労働者時代のマネジメント」の実践なのだと思います。
サービス業であるサロン経営は、現場対応能力が総てといっても過言では無いと思います。
スタッフが「手前味噌」な自慢をしたとしても、それを一旦は受け入れ、高校球児の様に自信を付けさせ、個性を伸ばし発揮させる様に導き、現場対応能力を磨いていく方向が、今後のサービス業に必要なことだと思いますが、いかがでしょうか。

今回は、朝日新聞コラム「あの人とこんな話」より、岩崎夏海氏のコメント、㈱ジェイック教育事業部長・知見寺直樹氏のメルマガ、㈱ワイキューブ・プランニング部マーケティング課マネージャー・下出裕典氏のメルマガより一部抜粋し、加筆しました。