『鵜(う)の目、鷹の目』 ― 不況期での経営のヒント ―
注意深く物を探し求める時の目つきをたとえた諺です。
ウやタカが獲物を狙う時の目のように、注意深く、何ひとつ見逃さずにさぐり出してしまおうとする、鋭い目つきを形容したものです。
鵜は水中を覗き込み、一気に頭を突っ込んでいって魚を取ります。
鷹は空中でゆっくり旋回しながら、獲物とする動物を凝視して狙いを定め、相手の隙を見極めて、一気に下降しターゲットを両足でしっかりと掴みます。
目から入ってくる情報には、意識せずとも勝手に入ってくるもの、意識して観察して見えてくるもの、注意深く凝視してやっと認識できるもの、頭も使って考えながら集中して思いを巡らし初めて見えてくるもの、などがあるようです。
「見る」「観る」「視る」「覧る」「看る」「診る」など表現が多数出てくるのも、その為と思います。
不透明な経済環境にある今、鷹の様に大所高所から小さなことにとらわれず、全体(消費動向、トレンドなど)を見渡す立場で凝視して判断する目と、鵜の様に足元(店内・スタッフ・お客様・商品等)をしっかり見て着実に手を打ち、魚(結果)をひとつずつ確実にGetしていくことの両方の目を経営者が持つ事が大切と小生は感じます。
また、サロン内で技術を自らされているサロンオーナーは、できる限り鷹の様な目で外に出て、同業他店を訪問して技術を受けたり、異業種店も含めて店づくりを数多く観察したり、店外での研修会(業界内外問わず)に参加するなど、生きた情報を積極的に取りにかかることも大切と思います。
逆に、経営専従でサロン技術から離れておられるサロンオーナーは、店内に入る時間を増やし、鵜の様に近くから、お客様の表情や満足度、スタッフの動き、などを凝視して、場合によってはお客様と実際に会話をしながら行き届かない点や強化ポイントを探るということも必要かと思います。
《鵜(う)呑み》
サロンワークをしている間に入ってくる情報は、お客様のお話からに限られます。
接客外の時間では訪問するディーラー、メーカー、その他業者からの情報がほとんどになる傾向があります。
そして、もうひとつがスタッフ間での情報のやり取りや店内勉強会、読書となり、サロン内での情報源は少ない上に、異業種と比べ閉鎖的なことに気付きます。
「鵜呑み」とは鵜が魚を噛まないで丸ごと呑み込むことから、物事の内容をよく理解・検討しないでそのまま受け入れる事を言います。
本誌の今年2月号で「生活必需の消費」と「心を豊かにするための消費」について述べましたが、消費意識は多様化し「心を豊かにする」為にどんなものに投資をするか、業種を超えて消費者が判断してきています。
「他店でヒットしているから」、「業界で話題だから」というだけの「業界鵜呑み」や「業者鵜呑み」は非常に危険だと感じます。
また、スタッフにチェックさせ、その判断結果によるものだけの「スタッフ鵜呑み」も危険と思います。
なぜなら個人レベルの香り等の好みによる主観的判断が入るのは避けられず、お客様視点や年齢的、髪質別適合性などが抜け落ち技術者としての使用感や直後の仕上がり感のみが優先されてしまい不採用となり、顧客満足の機会を逃してしまう場合があるからのなです。
製造者側は開発段階で、長期間に渡り消費者の好みを探る多数のテスト品をつくり、仕上がり感も微妙に変えた数種のサンプル品も合わせ、髪質別年齢別等のモニターを繰り返していき、製品化を進めます。
ボトルやパッケージのデザインも、消費者モニターをかけるメーカーもあります。
こうして誕生した完成品が、ターゲット客層と違う年齢層や髪質のモデルで試用されてしまったり、ターゲット客層の気持が理解できない年齢層の技術者だけの判断で、導入不適合のレッテルを貼られ、サロンの売上利益の機会を損失している場合もあると感じます。
鵜呑みをせずに、「鵜飼い」の様に鵜の「のど元」まで入った魚を鵜匠が巧みに繰り吐き出させるのと同様に、経営判断ができる人がしっかりとコントロールして、鷹の目で大所高所から判断する必要があると思います。
《鵜の真似をする烏(からす)》
今度の諺は、「自分の能力もわきまえずに、むやみやたらに人真似をすると失敗をする」というたとえで使われるものです。
鵜は水に潜って巧みに魚を捕らえますが、もしカラスがその真似をして水に潜って魚を捕らえようとすれば、溺れてしまうということから表現されました。
英語では「The jay is unmeet for a fiddle.」
(かけす=鳥の一種=はバイオリンに似合わない)と表現されるようです。
人類の進化は物マネから始まったと唱える人がいます。
人類のみが意識的にマネることを覚え、繰り返しマネているうちに脳の回路に記録され、それが基本動作になって進化してきたとの話。
手足を器用に動かすことで更に脳に刺激が加わり、基本を改良した高度な技を思いつき進化していく。
これが文明の発展につながったのだという説です。
中国の偽ブランド品のように法を犯しての模倣は良くありませんが、公序良俗に反しない真似なら大いにするべきだと思います。
もちろん、その際に悪いところまでマネをすることの無いよう、良い点だけを抽出し参考としていきます。
しかし、ここでも「鵜の目鷹の目」でしっかりと凝視し、マネをする対象を本質的なところまで見極める必要があると思います。
なぜなら、表面的、断片的に良いところを真似しようと思っても、実はヒットしている背景が見えないところに隠れていたり、一部だけを取り入れても実際は不完全だったりすることが多いものだからです。
来店客数が減少したり、売上高が低迷したりすると、ワラにもすがる思いで、他店でヒットしているメニューや仕組みを焦って取り入れる場合があります。
うわべだけでなく、本質的なところまで深く見定め、しっかりと学習した上で、自店向けにアレンジして導入していくことが重要なのです。
《猿真似》
猿はよく人のものまねをしますが、実はよくわかりもしないのに形だけマネをしているといわれています。
しっかりとした考えを持たずに、やたらに他人のマネをすることや、本質を抱えないで、うわべばかりをマネすることを「猿真似」と呼んでいます。
昔に比べ他店情報が簡単に手に入る時代になりました。
インターネットで美容室検索サイトを見たり、ホームページに入れば他店の売りメニューや営業戦略の一部が見てとれます。
また、ホットペッパーなどのフリーペーパーやタウン誌、更にはサロンの入口に置いてある、ご自由にお取り下さいリーフレットなどからも他店情報はた易く集められる時代です。
しかし、他店がそれをやって流行っているからといって、それを同じ価格や少し安い価格で後から導入しても成功するものでしょうか。
成功する確率はかなり低いものになると思います。
既に数多くのお客様に施術をして習熟度を高めている先行サロン以上に、短期間の準備で技術満足度を高められる可能性は低い上に、スタッフの気持ちも後追いによる自信の無さや後ろめたさによってパワーが発揮できない場合も多いのです。
同じ「中トロ」というメニューでも一カン100円の回転寿司と、3000円する寿司屋の違いをお客様は知っています。
ネタの違いは勿論のこと、美味しく食べさせる仕組みや接客、店の雰囲気まで考慮してお客様は使い分けているものです。
また、1杯100円のコーヒー店と1杯500円のコーヒー店で、500円の店の来客数が多いことがあるのはなぜなのでしょうか。
答えが味だけではない場合も多いと思います。
家で飲めば1本5000円のウィスキーをなぜ2万円でボトルキープするのか、その答えは心の充足度・満足感に比例して代金が支払われており、「生活必需消費」ではなくて「心を豊かにするための消費」として使われているからです。
《猿知恵》
不景気で消費が低迷しているからといって、近くの低単価店を意識して、お得メニューを安易につくることは「猿知恵」に近いことかも知れません。
髪の毛が伸び過ぎて、「行きたくないが、どこでも良いので切りに行く」と急にサロンに出掛けるのは、「心を豊かにする消費」ではなく「生活必需の消費」で、節約対象にされ易いお金です。
それは、安ければ良いという判断になりがちです。
身だしなみやファッションとしてサロンに行くことは、「心を豊かにする消費」の領域で、満足度に見合った金額が適正価格なのです。
「中トロ」を5000円でも満足するのか、2000円で安いと感じるのか、100円でも高いと思うのかと同様のことと思います。
低単価店は、低単価店なりの独特の経営スタイルが確率されていないと成り立たない面を持っています。
採算が取れている低価格店は、長年に渡ってその仕組みを作ってきたと思います。
短時間でお客様を効率よく回転させて、短い規定時間で技術を終了させる仕組み。
その為には少ない歩数で施術可能なレイアウトや、手の届く範囲に全ての必需品を置いたり、使用済みタオル等物品の処理手間を省くなど考慮しているようです。
必要最小限で最大の効率が上げられるような複数業務の同時進行や役割分担法、規定の使用量しか薬液を付けない徹底などによるコスト管理法も考えています。
そういった形を作って低単価でも利益が残る仕組みを作り上げてきたのです。
ただ、低単価とは言っても、30分3000円のお店なら、1時間かけて5800円頂いているお店よりも、1分あたり時間単価は高いという計算になります。
客単価が低単価サロンであっても、一概に低単価サロンと呼べない面もあり、ひょっとして高効率サロンであったり、高収益サロンであったりするのかも知れませんが、安易にマネをするのは危険であり、そう簡単に真似をできるものでもないと思います。
広告等を見ての安易な真似も成功確率が低いようです。
むしろ、広告投資を控えた分で、店舗入口を改装して入り易くしたり、看板やテントをリニューアルしただけで来客数が大きく増えたことは良く耳にします。
また、プチ改装と呼ばれる小規模改装によって、お客様の快適感を高めることによって、メニュー金額は据え置きなのに、サイドメニュー注文が増えて客単価が大幅アップした上、来店客数も増加したとの話も聞きます。
昔と違い住宅環境は格段に良くなり、来店されるお客様もリラックスできるお住まいをお持ちの方が多いと思います。
美容室で素敵になり、「心豊かに消費」しようと思っても、自分の住まいよりも落ち着かない環境や、ファッション性を感じない店づくりであっては、満足度に見合った料金は低くならざるを得ないと思います。
非日常的な空間に身に置いてこそ、上質な充足感を得られて、高単価でも安いと感じられるサロンと見なされる面もあります。
大切なことは、お客様の心の中を「鵜の目鷹の目」でしっかりと見つめ、「心豊かに消費」していただく為の満足度を高める努力をすることが、今一番必要なことではないかと思いますがいかがでしょうか。